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海外の特許製品を輸入・販売する際の注意点

2020/08/12 22:35
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

Q: 海外において販売されている、特許を得ている製品(以下「特許製品」といいます。)を輸入して、日本国内で販売することは問題ないでしょうか。

A: 特許権者が、特許製品を譲渡した相手方と、当該特許製品の販売先や使用地域から日本を除外する旨を合意している場合やその旨を当該特許製品に表示をしていなければ、日本に輸入して国内で販売しても特許権の効力は及びません。よって、当該特許製品に、日本を販売先や使用地域から除外する旨の明確な表示がなければ、日本に輸入・販売しても原則として特許権者から特許権を行使されることはありません。

1 並行輸入とは

日頃生活している中で、「並行輸入」という言葉を聞く機会が増えているように思います。「並行輸入」とは、海外において、適法に製造・流通に置かれた特許製品(日本で登録された特許発明を用いた製品をいいます。)を、正式な代理店を通さずに輸入・販売することをいいます。

その目的は、海外で日本より安価に販売されている特許製品を輸入して、日本で販売することでその価格差により利益を上げることなどが考えられます。

販売業者からすれば、国内と国外の価格差を利用して一定の利益を得ることができるため、並行輸入に特段問題はないように思われます。しかし、特許権者の立場から考えるとどうでしょうか。特許製品の並行輸入が多く行われた場合、特許権者は日本国内での価格を維持することが難しくなる可能性があります。そのような場合に、特許権者は当該特許製品の並行輸入について、差し止めや損害賠償請求を特許権の行使により行う可能性があります。

そのような紛争を避けるために、輸入した特許製品に特許権の効力が及ぶかは非常に重要な問題になります。

2 特許権の消尽

ここで、「特許権の消尽」という考え方があります。そもそも、特許法の条文において、特許権侵害に該当するとされているのは、特許権者に無断で特許発明を業として実施する場合です。事例において問題になる輸入はこの「実施」に該当すると解釈されています。そうすると、事例のように特許製品を輸入して販売することは(特許権者に無断である限り)形式的には特許権侵害に該当するように思われます。

特許権者の利益を図るという観点からはこの帰結に問題はないのですが、他方で円滑な経済や商品の流通という観点から、販売業者の利益も考慮する必要があります。すなわち、上記の帰結を前提とすると、特許製品を販売する場合、特許権者の承諾を得なければならないことになり、当該商品を円滑に流通に置くことができなくなってしまいます。

他方で、特許権者は、初回の販売時に特許製品に関する利益を確保することができていると考えられます。そうすると、2回、3回と転売が繰り返される場合にその都度全ての売買について特許権者の利益を保護する必要性が高くないものと考えることに一定の合理性はあると考えられます。

そのような事情を勘案し、特許法に明文はないものの一般的な解釈として、一度特許権者から適法に流通させられた特許製品については、特許権の効力は及ばないと考えられています。これが特許権の消尽です。あくまで適法に流通されたものを対象とするものであり、当品の流通など、適法と評価できない場合にまで及ぶものではないという点には留意を要します。

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3 並行輸入における消尽は認められる? BBS事件

上記では特許権の消尽を説明しましたが、事例のような並行輸入の際にも特許権の消尽は認められるのでしょうか。

この点について、BBS事件という事例に対して最高裁の判決が存在しており、以下の内容の判決を出しています。

【判決の要旨】

日本の特許権を行使できる者が外国において特許製品を譲渡する際、譲渡相手との契約等により、①その販売先や使用地域から日本を除外する旨を「合意」し、さらに、②特許製品の転得者がそのことを認識できるように特許製品に日本を除外する旨を明確に「表示」していない限り、特許権者は、譲渡相手およびその後の転得者に対し、黙示的に特許製品を支配する権利を授与したと解される。(①②は筆者による。)

すなわち、特許権の消尽は、①販売先等として日本を除外する旨の合意がされており、かつ②認識可能なように除外される旨が表示されている、という2つの要件を満たす場合に認められるという内容の判断がされたということになります。

では、BBS事件について事例を含めて判断の理由を説明します。

BBS事件の事案の概要は、以下のとおりです。

【事案の概要】

Xは、「自動車の車輪」という名称の特許権を日本およびドイツで保有していました。Xがドイツで販売されている商品を日本に並行輸入している業者に対して、当該商品の日本への輸入及び日本での販売等の差し止めと損害賠償を求めました。

ここで、上記の特許権の消尽が並行輸入の場合にも妥当するかが争われました。

そもそも特許権とは、自然発生するものではなく、国に特許権として認められて生じる権利であり、すなわち国ごとに特許権というものが成立しているということになります。日本で特許権を有するからといっても、必ずしも海外で同様の内容についての特許権を有するわけではないと言うことです。

外国で特許権を行使する機会があったとしても、日本における特許権とは異なるため、特許権者が日本における特許権についての利益を確保しているというわけではないことになり、消尽の理由の一つであった二重の利益を得るという論拠が妥当しない可能性があります。

他方で、もう一つの正当化根拠であった円滑な流通の阻害を防止するという点は、並行輸入の場合でも妥当します。

これらとの調整の観点から最高裁は、上述の通り、日本の特許権を行使できる者が外国において特許製品を譲渡する際、譲渡相手との契約等により、その販売先や使用地域から日本を除外する旨を「合意」し、さらに、特許製品の転得者がそのことを認識できるように特許製品に日本を除外する旨を明確に「表示」していない限り、特許権者は、譲渡相手およびその後の転得者に対し、黙示的に特許製品を支配する権利を授与したと解する、との基準を示しました。

4 実務上の留意点

上記の通り、並行輸入品を日本に流通させる際に特許権の消尽が認められるかは、特許製品に一定の「表示」があるかが重要な判断基準とされました。日本において、特許製品を並行輸入して販売する際には、日本を販売先や使用地域から除外する旨の表示が当該特許製品になされているかということをまず確認する必要があります。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライアンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。
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