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団体交渉の進め方

2020/11/03 19:36
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

Q : 労働組合が団体交渉を申し出てきた場合に、どのように交渉を進めるのが適切でしょうか。

A: 過去の記事(https://legal-online.net/columns/corporate/employee-dismissal-and-collective-bargaining)での解説の通り、基本的には団体交渉に誠実に応じる必要があります。その際には、交渉の方法は担当などについて配慮しなければなりません。なお、交渉に応じる義務があるだけで、主張を 受け入れる義務があるわけではありません。その状態で延々と交渉を続けることはお互いにメリットがありませんので、情報の提供や適切な提案などを行なっても最終的な合意に至ることができないようであれば交渉を打ち切ることができます。

交渉の前段階

団体交渉に関する義務

過去の記事で解説した通り、使用者は団体交渉の申し出を正当な理由なく拒むことはできないとされています(労働組合法7条2項)。仮に、正当な理由なく拒否した場合には不当労働行為とされる場合があります。

しかし、使用者にこの団体交渉義務が課されるのは全ての申し出というわけではなく、労働者の労働条件その他の待遇等に関するものであり使用者による処分が可能なものに限られます。つまり、使用者が解決できないことや、労働条件等に関連しない事項について団体交渉の申し入れがあった場合には、それは労働組合法が想定する団体交渉義務の範囲外ということになります。

そこで、団体交渉の申し入れがなされた時点の第一段階として、そもそも当該申し出の内容が団体交渉義務を生じさせるものであるか判断することになります。

団体交渉における態度

一部過去の記事において触れた通りですが、使用者は誠意を持って団体交渉に臨まなければなりません。例えば、明らかに短時間の交渉の場しか設けない場合(申し立て事項にもよりますが、約2時間交渉の時間が確保されていれば問題ないと言えるでしょう。)や、決定権限や交渉権限すらないような社員を交渉にあたらせる場合、また真摯な交渉態度ではないと認められるような行動を行う場合には、誠実交渉義務違反と判断される可能性があります。

団体交渉のための準備

団体交渉を持ちかけられた場合、上記のように誠実に交渉に対応しなければなりません。しかし、団体交渉にあげられる議題は例えば抽象的であったり情報が不足していたりする可能性があり、また組合の指定してきた期限までに時間がなく充分に検討の時間を取れないということも考えられます。そこで、以下のような点に留意をしつつ準備を進める必要があります。

スケジュールや開催の場所等

まず、組合からの交渉の申し出には、通常団体交渉の日時や場所が指定されていることが多いように思います。

そもそもそれらが指定されていなければ、適切な交渉の日時と場所を提案等する必要があると考えられますが、他方で指定されている場合であってもそれに従う必要は必ずしもありません。指定されている日時や場所を改めるよう要望を出したとしても(その要望が不合理でない限り)誠実交渉義務違反とはされません。

そのため、準備等に関連して適切な交渉の日時について回答しておくことが考えられます。

また、特に場所については、中立な立場であるということから公的な施設等において行うことが適切であると考えられます。そうすることでお互いの公平感を確保することができますし、軟禁等の状況を回避することも可能です。

なお、交渉自体は賃金の支払いに関する問題や業務への支障が生じることを防ぐ必要があることからも終業時間外に行うのが適切であると考えられます。

議題に関する事項

議題については申立書に記載があると思われますが、抽象的である場合や内容が判然としない場合などにはその内容について具体化や説明を求めておく必要があります。そのような状況で準備をしても交渉自体が噛み合わない可能性もありますし、情報が不足することで適切な提案や交渉を行えない可能性があるからです。

その他の事項

出席者はお互いに一定の人数に限定するのが良いと考えられます。というのも、一方が大人数で交渉のテーブルにつく場合、他方は人数による圧力を感じ、適切な交渉をすることができない可能性があると考えられるからです。

また、当日の交渉の経緯等を録音や録画しておくことが考えられます。会社側で録音等があった方が都合の良い事情があれば会社側から持ちかけることも考えられます。他方で組合側から録音等を要望された場合応じなければならないわけではありません。この点はお互いに方法を決めておくと良いでしょう。

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交渉当日における留意

会議スペースのセッティング

会社外のスペースを利用する場合、当日に会議室等のセッティングを行うことになるかと思います(前日等に準備しておく場合にもこちらをご参考にしていただければ問題ありません。)。

まず、机等のセッティングに関連して留意すべき事項は(i)机や椅子の場所や労使間の距離、(ii)労使それぞれの着席位置となります。

労働組合は労働者の意思を示す機関ということもあり強硬な態度をとってくる可能性がありますし、議論の途中でヒートアップしてしまうことも考えられます。そのため、(i)机や椅子については少し距離を開けてセッティングするといいでしょう。

また、労働組合の強行的な姿勢の可能性に関連しますが、労働組合が出口側に陣取ってしまうと、使用者側の退席を許されなくなるという可能性もあります。そのため(ii)使用者側が出口に近い方の席に座る方がいいと考えられます。

初回交渉

交渉は通常の会議と同じように、挨拶や自己紹介から始めて、議題の説明、議論という流れで進むことが多いと思われます。

団体交渉は1回で終わらないことが多く、大抵の場合には2回3回と交渉を重ねて最終的な落とし所を探り、もしくは決裂するという形になります。そのため、初回は非常に重要です。そもそも団体交渉とは労働組合の言い分を使用者が吸収することを目的としていますので、議論のスタート地点は労働者側の言い分を聞くことです。初回においては労働者の言い分をしっかりと吸い上げることを意識しつつ臨むと良いでしょう。また、申し立てられた議案について、使用者側に対する質問等がなされることは充分に想定されますので、事前に想定問答のようなものを作成しておくと回答等に時間を要することなく交渉がスムーズに進みますし、労働者側も誠実に交渉に臨んでいるという心証を得ると考えられますので事前の準備は非常に重要であると考えられます。

上記の通り、交渉は複数回に分けて行われるのが通常ですので、初回では労働者側の言い分・主張を聴取して整理することに重点を置きつつ、使用者側の意見等伝える必要がある事項については相手に不快感を与えることがないよう注意しつつ伝えましょう。

整理の際には、使用者側で応諾できるようなものなのか、仮に裁判になった場合に裁判所はどのように判断するのかなど、2回目以降の方針を考える上でも必要な情報等に着目しつつ整理し、交渉後のリサーチ・検討に活かせる形を意識するとスムーズです。

・事実関係

・労働組合の主張

の2つを軸に議事録を作成すると情報の漏れがないと考えられます。

初回の交渉を終わるときには、内容の簡単なまとめとネクストアクションの確認をしておくといいでしょう。使用者側も交渉に前向きであることを労働者側に示せますし、今後の展開について見通しが立てられるようになります。

初回交渉終了後から2回目以降の交渉について

初回の交渉が終わった後は、交渉で確認したネクストアクションを軸に、社内での検討を進める必要があります。

2回目以降の交渉の方向性や落とし所について充分に検討しておき、追加で想定問答を作成したり修正したりすると良いでしょう。

2回目以降でも、例えば時間帯や会議室のセッティング等については上記と同様の注意点があてはまります。

そして、最終的に交渉は終了することになります。労使間でお互いが望む結論に落ち着けばベストですが、必ずしもそのように終わることばかりではありません。冒頭にも記載していますが、誠実に交渉をした結果として、最終的な合意に至れない場合にはそこで交渉を打ち切ることができますので、誠実に交渉をした後の手段として押さえておく必要があります。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライアンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。
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