Q : 当社の従業員を解雇したところ、労働組合から当該解雇を撤回するように団体交渉の申し入れがなされました。当社は解雇を撤回するつもりはないのですが、このような申し入れにどのように対応するのが適切か教えてください。
A : そのような申し入れがされた場合には、その申し入れをしてきたのが社内の組合か、社外のもの(いわゆる「ユニオン」と呼ばれるもの。)かを問わず、誠実に交渉をする必要があります。解雇を撤回する余地がない場合であっても、誠実に協議しなければならない点に差はありません。
1. 労働組合の概要
まず、労働組合とは、経済的に弱い立場にある労働者が集団である使用者と交渉することによって使用者と対等な立場に立つことを可能とすることを目的とする労働者で構成される団体(組合)をいうとされています。労働組合に関する事項の多くは労働組合法において規定されています。
労働者の団結権は憲法28条において憲法上の権利として保障されています。
(1) 労働組合とユニオン
労働組合という言葉と似たような使い方で「ユニオン」という言葉が利用されているのを聞いたことがあるかと思います。
通常、「労働組合」と「ユニオン」という形で使い分けはされていますが、労働組合法においては同じ意義を持つ集団であり、差があるというわけではありません。
ただ、一般的にはその内容には差がありますので、以下において簡単に説明します。まず、労働組合というのは特定の企業に勤務する労働者らが団結して結成し、使用者との間で上記のような労働条件に関する交渉を行う団体をいうことが多いと思われます。
それに対してユニオンとは、特定の会社に所属することを要件とせずに、例えば同業種や同一の業界における労働者が個人で加入することができる労働組合のことを指すことが多いと思われます。
つまり、両者は労働組合であり、労働者の団体交渉権を守るために組織されるものであるという点で共通する一方、特定の会社等一つの企業の構成員のみによって構成されているか一つの企業の構成員のみに限らず構成されているかという点で差異があることになります。ユニオンの形態での労働組合は、中小企業が多い日本ゆえに発展してきたものであるといわれています。
(2) ユニオンと企業の関係
ここまで、労働組合とユニオンの差について確認してきました。会社からすると、労働組合は自分の会社に所属する職員の団体であり、軽視することは難しいと考えると思います。
他方、ユニオンは上述の通り必ずしも一社の職員のみにより構成されている組織ではなく、企業との紐付けは必然的に弱いものになると考えられます。そのため企業からするとユニオンはあくまでも部外者であり、比較的軽視が可能だという思考に陥りがちです。
しかし、組織の成り立ちこと異なりますが、上述の通りユニオンも労働組合であることは紛れもない事実であり、企業としてはユニオンからの交渉の申し出であっても応じなければならないことになります。
2. 労働組合との交渉
(1) 誠実団交義務
1.においては、労働組合について概観しました。なお、労働者との団体交渉の義務は、労働組合法7条2号において雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒んではならないと規定されています。そのため、使用者は団体交渉に応じる義務があることになります。
そもそも、団体交渉権は労働者の権利を保護するために定められているものである旨上述しておりますが、労働者からすれば使用者が交渉のテーブルについたとしても使用者が真剣に交渉する姿勢で臨んでくれなければ何の意味もありません。そのため、使用者は合意達成の可能性を模索して誠実に交渉する義務(誠実団交義務)を負うとされます。例えば、使用者の主張の根拠を具体的に説明したり、資料の提示など誠意のある対応を取る必要があるとされます。
(2)不当労働行為
(I)総論
また、誠実に交渉を行うこととの関係で不当労働行為という概念がありますので、ここで触れます。不当労働行為であると労働組合が判断した場合には、各都道府県の労働委員会に対して救済措置を求められる可能性があります。これは労働委員会に使用者の行為が不当労働行為に該当しないかを判断してもらう制度です。なお、労働委員会が不当労働口であると認めた場合には救済命令が発令され、それに従わない場合には労働組合法32条に基づき「50万円以下の過料」が課される可能性がありますので注意が必要です。
では、不当労働行為とはどのような行為をいうのでしょうか。一部は既に言及していますが不当労働行為とは労働組合法7条において規定されている行為の総称であり、使用者による①労働組合への加入等を理由とした不利益な取り扱い、②団体交渉の拒否、③労働組合の結成・運営に対する支配・介入、及び④労働委員会への申し立て等を理由とした不利益な取り扱い、の4つの類型が規定されています。
本稿においては、②団体交渉の拒否が問題になりますのでそこに焦点を当てて説明します。
(II)正当な理由とは
まず、労働組合法7条2号は、正当な理由なく団体交渉を拒否することを禁止していますので、そもそも正当な理由がある場合には団体交渉を拒否することは可能であることになります。例えば、退職に関する問題が発生した後、既に一定の期間が経過しており、既に時期を失したといえるような場合には正当な理由があると考えられています。
(III)不当労働行為に該当する場合
まず、交渉に応じない場合は上述の通り不当労働行為に該当することは明らかです。
しかし、団体交渉を行ったとしてもその交渉が実質的には意味をなさないと考えられるような場合には不当労働行為に該当すると判断される可能性があります。
例えば、交渉の場を設けるものの時間が極端に短く充分な交渉を行うことができない時や、決定権を持たないような社員だけが交渉の場に同席するような場合には不当労働行為に該当すると判断される可能性があります。
(IV)交渉の終了
しかし、誠実に交渉に応じることと、労働者の主張を認容することはイコールではありません。あくまでも誠意を持って労働者の主張に向き合い、交渉を実のあるものにすることが目的ですので、資料の提示や適切な回答を繰り返しても合意に至らない場合には、交渉を打ち切ることも可能です。
3. まとめ
以上の通り、企業としては労働組合からの申し入れがあった場合には、それが企業における労働組合かユニオンかを問わずに適切に対応する必要があります。応じる場合、形式に応じるだけではなく、資料の提供などを含めた対応を行う必要がある点にも留意を要します。