国際取引における仲裁条項

2020/06/10 09:00
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

1 裁判と仲裁 

一般的に、訴訟が提起され、裁判が終結するまでには、少なくない手間と時間と費用がかかります。

裁判を進めるにあたって、弁護士を選任することは必ずしも必要ではありませんが、相当裁判手続きに詳しくない限り、弁護士に依頼せずに訴訟手続を進めることは困難です。

もっとも、裁判を受ける権利は、憲法上、手厚く保障されていることから、原則として制限はできません。そのため、誰しもがいつでも裁判の相手方になってしまう可能性があります。裁判で主張されている請求と自分が何の関係もない場合でも、裁判を起こす原告のいいがかりによって、裁判に巻き込まれてしまうことは誰にでもあり得ます。

また、裁判は公開が原則とされていることから、公開したくない情報が公の知るところとなってしまうこともあります。

このような裁判の問題点を回避しつつ、当事者間の争いを解決できる手続きが、仲裁手続きです。

仲裁は、裁判と同様、争いを終局的かつ実効的に解決する手段です。終局的とは、一度、結論が出たら覆せないという意味で、実効的とは、強制力があるという意味です。

この手続きによれば、当事者が合意さえすれば、裁判官でない仲裁人に裁判官のような役割を持たせ、争いを終局的かつ実効的に解決できます。 

2 仲裁のメリット 

仲裁は、日本国内の当事者同士の契約ではあまり見ることがありませんが、紛争当事者にとって三つの大きなメリットがあります。

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まず、一審性ということがあげられます。

日本の裁判は、三審制がとられているため、地方裁判所や簡易裁判所で勝訴しても、相手が控訴、さらには上告しうるので、裁判が確定するまでには相当の期間がかかります。その分、弁護士費用もかさみます。他方で、仲裁は一審で終結し、極めて例外的な場合を除き確定します。そのため、裁判と比べて、迅速な紛争の解決が可能です

もう一つのメリットは、非公開であることです。

紛争の内容は、センシティブで他者に知られたくないことが通常であるため、公開が原則の裁判手続きと異なり、非公開で紛争解決の手続きを進められることは、当事者にとって大きなメリットとなります。

最後に、仲裁人を当事者の合意で選ぶことができるというメリットがあります。

通常の裁判の場合、担当する裁判官はランダムに割り振られます。そのため、どうしても当たりはずれがあります。また、裁判官は法律に詳しい者がほとんどのはずですが、法律以外の分野についての知見については区々です。例えば、自動車の製造物責任が争われているとして、自動車の製造過程に詳しい裁判官もいれば全く知見のない裁判官もいます。事件を解決する上では、法律の適用の前段階として事実の認定があるので、紛争事実の前提知識への精通度合いは、本来事件の核心に迫る上で極めて重要です。そこで、例えば自動車の売買契約に仲裁条項を定め、仲裁人として自動車の製造過程に詳しい人を定めておけば、争いが生じた場合でも公平に適った解決が期待できます。

以上のように、特定専門分野の知見と経験を前提に、終局的かつ実効的な判断をする仲裁人を当事者が選ぶことができるので、この点は大きなメリットといえます。 

3 仲裁合意の内容 

仲裁合意するとして、最低限契約に定めるべきは、以下のような点になります。

  1. 仲裁人の指定
  2. 仲裁を行う場所の指定
  3. 使用する規則
  4. 終局的拘束性の有無 

4 仲裁地 

国際取引において争いになった場合に、どの国の法律を適用し、どの国の裁判所で争うかについて調整が難しいのと同様、仲裁を行う場所についても、折り合いがつきにくいことが多いです。

そこで、折衷案として、仲裁を行う場所を第三国とするケースが多くみられます。古くから、永世中立国のスイスには仲裁機関が多数設置されており、かかる第三国となることが多々ありました。

もう一つ、公平に適った取り決めとして、仲裁手続きを申し立てられる側の国を仲裁地とする方法もあります。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。