債権未回収の対応策と予防方法

2020/06/10 09:00
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

1 未払債権回収手続

取引先等の支払いが滞っている場合、相手方が単に支払いを忘れている場合等であればすぐ解決できることが多いと思いますが、相手方との連絡が取れなくなってしまう場合等もあります。

そのような場合に、どのような債権回収手続きによることになるのか、また、債権回収できないリスクをどのように回避するのかについて、以下、ご説明いたします。

2 債権回収の法的手続

債権の未払いが発生し、相手方取引先等との話し合いで解決できない場合や、相手方と連絡が取れない場合は、法的措置を講じることになります。自力で相手の財産を勝手に持ち出したり、それを売却するなどしたりすることは違法です。

債権の未払いが発生し、相手方取引先等との話し合いで解決できない場合や、相手方と連絡が取れない場合、まずは相手方に内容証明郵便を送ることになると思います。相手方に内容証明郵便を送ることで、相手方への心理的圧迫となるほか、その後の訴訟においても有利となります。

そして、相手方に内容証明郵便を送付しても支払いがなされない場合、相手方に訴訟提起することになると思います。訴訟は、債権を回収する上で一般的な方法といえます。

訴訟を提起する場合、必ずしも弁護士に依頼する必要はありません。もっとも、民事訴訟の手続きは複雑なため、有利に訴訟を進めるためには弁護士に依頼することが望ましいといえるでしょう。

そもそも訴訟提起するのは、強制執行、すなわち国家権力を用いた債権の強制的な回収を可能にするためです。訴訟に勝って勝訴判決を取得する場合のほか、和解が成立して和解調書が作成された場合も強制執行が可能となります。

なお、第一審で勝訴しても、相手方としては控訴審、上告審と争うことは可能です。もっとも、そもそも控訴審や上告審に移行することは少なく、また、第一審の判決後に仮執行宣言がなされて、強制執行手続きの申し立てが可能になることが通常です。

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3 強制執行手続

訴訟に勝訴するか、和解調書を取得した場合は、強制執行の手続きに移行することになります。もっとも、勝訴又は和解後に相手方が任意に支払ってくれた場合はその必要はありません。

強制執行するためには、まず、強制執行する対象としての相手方の財産を確認する必要があります。

強制執行の対象となるのは、銀行口座、現金、店舗の動産類や不動産、自動車、取引先が有している債権などです。不動産については、登記簿などから把握できる場合があります。しかしながら、不動産については抵当等担保に入れられている場合はそこから回収できる可能性は低くなってしまいます。

この点について、日本では、相手方の財産を開示させる制度が十分に整っているとはいえない状況です。財産開示という制度があることにはあります。これは、債務者に出頭を命じ、宣誓させた上で財産について陳述させる手続きですが、出頭を命じてから出頭期日までに財産を売却したり隠匿したりしても、その財産は開示の対象とはならず、宣誓を行うといっても、全ての所有する財産を正直に開示するかどうかは分からないため、実効性に欠け、財産開示制度はほとんど使われていません。

よって、債務者の財産を事前に把握しておかないと、強制執行の対象が決められず、訴訟に勝っても意味がなくなってしまいます。

相手方の財産としてまず検討すべきは、銀行口座だと思います。東京商工リサーチ等を通じてメインバンクの情報を取得可能な場合があります。銀行口座が分かると、預金を強制執行の対象とすることが可能です。もっとも、相手方がメインバンクからも借り入れを行っている場合は、メインバンクによる相殺で預金がなくなり、回収できない場合もあります。

したがって、預金から債権回収する上では、メインバンク以外の銀行口座などを把握することが重要となります。その方法として、弁護士照会制度があります。これは、弁護士法第23条の2に基づくもので、訴訟に勝って確定判決を取得していれば、弁護士が銀行等に問い合わせをすることで、預金口座の存否、その残額について回答を得られる場合があり、実務上、大手メガバンク等はこれに応じる傾向にあります。

4 債権未回収のリスクを回避するために

以上の通り、債権回収までの道のりは決して平坦ではありません。そのため、債権未回収のリスクを軽減する方策が重要となります。

まず、勝訴判決の代わりとして公正証書を作成しておく方法があります。これにより、強制執行手続きの開始が容易となります。

次に、強制執行を容易にするために、担保となる財産を把握しておくことが重要です。銀行は通常、貸付の際、不動産を担保にとることで、未回収のリスクの軽減を図っています。賃貸借契約においてオーナーが預かる敷金や保証金なども担保の一つです。

また、未回収の発生後に財産の把握を容易にするべく、契約締結の段階で財産についての情報提供を求めたり、契約書において財産開示についての定めをしたりしておくことも効果的です。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。