フランチャイズ事業の展開

2020/08/04 03:19
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

Q: 当社の技術や基盤を用いて、今後フランチャイズチェーンを展開していきたいと考えています。加盟方式は、加盟者が事業主として運営することを想定しています。

フランチャイズ展開に伴う法的な留意点を教えてください。

A: フランチャイズ契約は、本部事業者であるフランチャイザー(以下「フランチャイザー」といいます。)と、加盟店であるフランチャイジー(以下「フランチャイジー」といいます。)の間で締結される契約です。

フランチャイザーとフランチャイジーの間には地位や情報量など大きな差がありますので、その点を考慮した規制が置かれています。

フランチャイザーは、このような差を意識しつつ、フランチャイズガイドライン(以下に定義します。)に則り適切なプロセスを経て契約を締結することが必要になります。

1 フランチャイズ契約とは

フランチャイズ契約とは、上記の通りフランチャイザーとフランチャイジーにより締結されるものです。フランチャイザーはフランチャイジーに対して商号等を使用する権利を与えるとともに、自らが持つノウハウを与えたり事業経営について指導や助言を行い、それに対してフランチャイジーが対価として金銭等を支払うことを目的とします。フランチャイザーは事業を拡大することが可能になり、他方でフランチャイジーはフランチャイザーのノウハウ等を利用して起業することで単独で起業した場合よりも利益を上げやすくなるというメリットがあります。

2 フランチャイズ契約が問題になる理由

フランチャイズ契約では、フランチャイジーはあくまでも事業者となります。そのため、フランチャイザーはフランチャイジーに生じた損害について補填等する必要はなく、損失はあくまでもフランチャイジーが負担することになります。

フランチャイジーとなる人は、経営については素人が多い傾向にあります。そのため、自らの経営スキルや将来への見通しが甘いことも多く、実際に収益化できなかった場合にフランチャイザーに対する不満となり、損害賠償請求などには発展することがあるのです。

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3 法的な規制と説明義務

上述のような紛争はフランチャイズ契約の当事者であるフランチャイザー、フランチャイジーいずれにとっても避けることが望ましい事態です。そのため、フランチャイザーは法的な規制を遵守すること及び十分な情報を開示することによって、フランチャイジーに適切な理解を促し、リスク等について十分に認識してもらったうえで契約を締結することが必要になります。

フランチャイズ契約は、①中小小売商業振興法、②独占禁止法、③その他の一般規定、などの規制を受けることになりますので、以下概観します。

(1) 関連法① 中小小売商業振興法

まず、中小小売商業振興法についてですが、特定連鎖事業(小売や飲食のフランチャイズチェーン)はフランチャイザーに対して一定の事項を記載した書面の交付及び当該事項に関する説明義務を課しています(同法第11条第1項)。同条は、例えば、(i)加盟金や保証金などの金銭に関する事項、(ii)商品の販売条件に関する事項、(iii)経営の指導に関する事項など、フランチャイズ契約において重要になる事項について記載した書面を(a)交付したうえで、それらについて(b)説明しなければならないことになります。

これらの説明義務を果たさない場合、主務大臣から上記の説明義務を果たすよう勧告がなされたり、なおその勧告に従わない場合には勧告を行っていないことを公表されるなどの制裁が科されたりする可能性があります。

勧告に従っていないことが公表された場合、レピュテーションリスクを含む社会的信用が低下することになりますので、注意を要します。

(2) 関連法②独占禁止法

独占禁止法についても、フランチャイズ契約の締結に際し注意すべき条項がありますが、いくつか例示的にご紹介します。

ア ぎまん的顧客誘引

独占禁止法第19条は不公正な取引方法を禁止しており、同法第2条第9項及び一般指定第8項において「ぎまん的顧客誘引」が規制されています。ぎまん的顧客誘引とは、「自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引すること」をいうとされています。フランチャイザーが、契約に際して重要事項の開示を十分に行わなかったり、不正確な情報や虚偽を含んだ情報開示を行うことにより、フランチャイジーに実際の商品よりも優良であると誤信させたり競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引する場合には、ぎまん的顧客誘引に該当する可能性があります。

ぎまん的顧客誘引に該当すると判断された場合、フランチャイザーは公正取引委員会から当該行為の差し止め、契約条項の削除その他必要な措置を命じられる場合があります。

イ 優越的地位の濫用

フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について(以下「フランチャイズガイドライン」といいます。)において、優越的地位の乱用に該当するものとして以下の5つの行為が掲げられています。

  1. 取引先の制限
  2. 入数量の強制
  3. 見切り販売の制限
  4. 契約締結後の契約内容の変更
  5. 契約終了後の競業禁止

これらは、「フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施する限度にとどまるものであれば、直ちに独占禁止法上問題になるものではない」とされているものの、「フランチャイズ契約又は本部の行為が、フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施する限度を超え、加盟社日亜して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合」には、独占禁止法第2条第9項第5号に該当するとして排除措置命令や課徴金の納付命令を受けることがあり得ますので留意が必要です。

また、上記の優越的地位の濫用以外に、フランチャイズ・システムを利用した抱き合わせ販売等・拘束条件付取引や、販売価格の制限を行った場合も独占禁止法違反と評価される場合があります。

(3) 信義則上の説明義務

上記の通り、フランチャイズ事業においては、フランチャイザーとフランチャイジーの間で保有する情報量、スキルに大きな差があります。そのため、本部事業者(フランチャイザーは、加盟予定者(フランチャイジー予定者)に対してフランチャイズ契約に関する意思決定のための判断材料になる客観的かつ的確な情報を提供すべき義務を負うものとされます(東京高判平成11年10月28日)。

また、本部事業者が加盟予定者に対して行った説明について、売上予測の調査が杜撰であるうえ、恣意的な売上予測を行ったうえで提供したという事案において、本部事業者の情報提供義務の懈怠を認め、損害賠償を認めた裁判例も存在します(名古屋地判平成10年3月18日)。

4 フランチャイズ契約の終了

フランチャイズ契約においては、上述の通り、フランチャイジーはフランチャイザーのノウハウ等を用いて仕入れや収益を得ています。契約終了時に、一定の取り決めを行わなければ、契約終了後にロイヤリティを支払っていないにもかかわらずノウハウの使用を継続して収益を得ることが考えられます。

そのため、フランチャイズ契約締結時には、契約が終了した後のことについても想定のうえ規定をしておく必要があります。例えば、ノウハウに関する守秘義務や不当な利用の制限、それらに違反した場合の損害賠償等のペナルティを定めておくのが望ましいと考えられます。

5 フランチャイズ事業について(総括)

フランチャイズ契約は、フランチャイザーからすれば自分の事業を拡大することができ、フランチャイジーからすればすでに定まったノウハウ等を利用して事業を行い収益が得られるため、両社にとってWin-Winとなるビジネスモデルの一つであるといえます。

しかし、両者の間で経済的・能力的な差があるため適切かつ公平な事業の運営を行うことが、コンプライアンスの観点から重要になります。

また、コンプライアンスを意識した経営を行うことは、法令遵守だけでなく、フランチャイジーとの間の良好な関係を築きさらなる事業拡大を図るうえでも重要です。

フランチャイズ契約を締結する際には、適切な情報を開示するなどしたうえで事業を運営していく必要があります。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。