インターネット上での誹謗中傷行為に対する対応方法

2020/06/10 09:00
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

1 インターネット上での誹謗中傷行為

インターネット上のサイトなどに、特定の会社を誹謗中傷する記事が書き込まれるというケースが多発しています。このような誹謗中傷記事が書き込まれてしまった場合、会社のレピュテーションは毀損され、不可逆的な事態を招きかねません。

このような誹謗中傷行為に対して、被害者である会社は、当該誹謗中傷記事の削除、誹謗中傷行為を行った者に対する名誉毀損に基づく損害賠償請求などを行うことが可能です。

なお、誹謗中傷記事によって会社の名誉が毀損された場合、刑法上の名誉毀損行為に該当し、刑事告訴が可能です。しかし、インターネット上の名誉毀損行為に関して、検察や警察が捜査を行うことは稀といえます。そのため、実務上、民事による解決がメインといえますので、本稿では、刑事告訴に関しては割愛いたします。

以下、上記対応方法について、詳しく見ていきましょう。

2 誹謗中傷記事の削除について

インターネット上のサイトなどに書き込まれた誹謗中傷記事を削除する方法は、(1)サイト運営者等に対して、任意の削除依頼をする方法、(2)裁判所を利用して仮処分命令の発令を求める方法があります。

以下、それぞれの方法について、詳しく説明いたします。

(1)サイトの管理者やプロバイダに対して、任意の削除を求める方法について

サイトの管理者やプロバイダに対して、誹謗中傷記事の任意の削除を求める方法として、当該サイトに設置されているウェブフォームを利用する方法があります。

この方法は、誰でも利用可能で、費用もかかりませんが、サイト運営者等が、削除依頼に対応してくれないケースが多いのが実情です。

そのため、この手段をとったとしても、誹謗中傷記事を削除できる実効性は、低いと考えられます。

次に、誹謗中傷記事の削除については、一般社団法人テレコムサービス協会のガイドラインに従って、送信防止措置依頼をする方法があります。

この手続は、サイトの管理者やプロバイダに、名誉毀損となる記事を削除するよう記載した依頼書を郵送し、サイトの管理者やプロバイダが、当該依頼を確認すると、誹謗中傷記事を書き込んだ発信者に対して、その書き込みの削除の可否を尋ねるという制度です。そして、発信者から7日間以内に反論がなければ、誹謗中傷記事が削除されるというフローになります。

そして、発信者から反論があった場合には、「権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由」の有無をサイトの管理者やプロバイダが判断することになります。

こちらの手続きは、ウェブフォームからの削除依頼よりはインパクトがある手続きといえますが、法的強制力のある手続きではないので、サイトの管理者やプロバイダが対応してくれないケースが多いのが実情です。

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(2)裁判所を利用する方法について

インターネット上の誹謗中傷記事については、裁判所に対して、削除権限のあるサイトの管理者やプロバイダを相手方として、誹謗中傷記事を仮に削除せよという仮処分命令の発令を求める方法があります。

仮処分では、申立書に名誉権等の権利が侵害されていることや削除を求める必要性等を記載し、裁判官に対し、自己の権利が侵害されているので、速やかに削除してほしいと訴えます。訴えが認められ、誹謗中傷記事を仮に削除する命令が発令された場合には、遅くとも1週間程度で、誹謗中傷記事記事が削除されることになります。

仮処分は、権利侵害性が明らかであれば削除が実現するため、誹謗中傷記事に対する有効な手段といえます。もっとも、法的に高度複雑な手続きであるため、弁護士に依頼する必要性が高く、弁護士費用がかかる上に、担保金も必要になるので、費用がかさむ点が難点といえるでしょう。

これに対し、裁判所を利用する手続きとしては、純粋に訴訟提起する方法もありますが、判決まで長時間を要すること、実質的には仮処分命令が出された段階で誹謗中傷記事の削除が実現できることから、利用頻度は低いといえます。

3 発信者情報開示請求について

インターネット上のサイトで誹謗中傷された企業は、名誉権等の権利が侵害されたとして、誹謗中傷記事を書き込んだ者に対し、損害賠償請求ができます。

この損害賠償請求をする前提として、誹謗中傷記事を書き込んだ者の個人情報が不可欠ですので、発信者情報開示請求制度を用いて、書き込みした者を特定する手続きが必要です。

(1)発信者情報開示請求とは

発信者情報開示請求とは、プロバイダ責任制限法第4条に基づく情報開示請求のことを指します。この手続きは、インターネット上で誹謗中傷行為を行った発信者の住所・氏名・電話番号等の個人情報について、プロバイダに対して、情報の開示を求める制度です。

(2)サイトの管理者やプロバイダに対する発信者情報開示請求

発信者情報開示請求の方法は、削除請求の場合と同様、IPアドレス(発信者情報)を開示してくださいと請求することになります。

すなわち、ウェブフォームからの任意の開示請求、一般社団法人テレコムサービス協会のガイドラインに従った開示請求、裁判所を利用する開示請求があります。

なお、発信者情報開示請求についても、サイトの管理者やプロバイダは任意の開示には応じてくれないことが多いので、削除請求と同様、仮処分による方法のみが実効性を有する方法になるケースが多いといえます。

(3)インターネット接続業者に対する発信者情報開示請求

サイトの管理者やプロバイダからIPアドレスの開示を受けた後は、IPアドレスやドメイン名の登録者などに関する情報を、インターネットユーザーが誰でも参照できるサービスであるWHOISを利用し、当該IPアドレスを割り振ったインターネット接続業者を特定することになります。

そして、インターネット接続業者を特定後、当該インターネット接続業者に対し、特定の時刻に、当該IPアドレスを使用して、インターネットに接続した人のアクセスログを開示するよう請求します。

ここで留意しなければならないのは、上記アクセスログの保存期間が、3カ月から6カ月程度のため、仮処分を申し立てる前に、インターネット接続業者に対し、アクセスログの保存を要請する又は保存を目的とした仮処分手続きを実施する必要があるということです。

(4)発信者に対する損害賠償請求

誹謗中傷記事の発信者を特定した後は、当該発信者に対し、当該誹謗中傷記事により会社の名誉権等の権利が侵害され損害を被ったとして、損害賠償請求を求めることができます。

なお、この損害賠償請求によって認容される損害額は、100万円前後となるケースが多いといえます。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。