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ネット上の誹謗中傷に対する削除請求と発信者情報開示請求

2020/06/11 14:42
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

インターネット上の書き込みで企業が誹謗中傷や風評被害を受けた場合、名誉毀損を理由として書き込みの削除や発信者(書き込みをした当人)の情報開示を求め、必要に応じて損害賠償や謝罪広告を請求していくのが基本的な対応策となります。

請求先は第一にインターネット関係のサービスを提供するプロバイダですが、プロバイダが任意に(裁判を待たずに)請求に応じる例は少なく、法的手続きに訴えるにしても数々の問題点が存在します。とくに発信者情報開示では請求を断念せざるをえないケースが多いことが問題視されており、総務省では年内(令和2年中)を目途に改正案を取りまとめる方針で検討が進められているところです。

企業が名誉毀損を受けた場合を想定して、書き込みの削除・発信者情報開示を請求する手続きの概要と法的問題点を整理してみることにします。

誹謗中傷の書き込みが行われる際の流れ

インターネット上のコンテンツを利用するためにはインターネットにつながっていなければなりません。書き込みなどを行う発信者は常にアクセスプロバイダ(インターネット接続を提供する会社)のサービスを利用しながら、コンテンツプロバイダ(掲示板やSNSなどのコンテンツを提供する会社)のサービスを利用しているわけです。

【アクセスプロバイダ】

  1. 発信者が自分で契約しているインターネットサービスプロバイダ(ISP)や携帯電話会社
  2. 商業施設や自治体が提供するインターネット(無線LANなど)を利用する場合は、商業施設や自治体が契約しているISP

【コンテンツプロバイダ】

電子掲示板、SNS、書き込み機能を備えたポータルサイト・動画配信サイトなどを運営する会社

インターネットに接続している間、発信者の使う端末(PC・スマホなど)にはアクセスプロバイダによってIPアドレス(インターネット上の住所)が割り当てられます。各IPアドレスは接続の開始・終了日時と紐付けられて利用者のアクセス履歴(ログ)として記録されます。

コンテンツ上で利用者が書き込み投稿を行うと、投稿者のIPアドレス(アクセスプロバイダから割り当てられたもの)と投稿日時を合わせたアクセス履歴がコンテンツプロバイダによって記録されます。また、利用にログインが必要なコンテンツではログイン・ログアウト時にIPアドレスなどが保存されます。

発信者情報開示請求の方法

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名誉毀損を受けた企業が発信者に対して損害賠償などを請求する場合、まずは発信者の素性を特定しなければなりません。そのためには誹謗中傷が書き込まれる際の流れを逆にたどりながら開示請求をしていくことになります。

「発信者を特定する」とはどういうことか

発信者を特定するための「直接の証拠」と見なされるのは書き込み投稿時に記録されたIPアドレスと投稿時間です。しかしこれだけでは「発信者が誰か」まではわかりません。

まずコンテンツプロバイダに請求して当該IPアドレスと投稿時間の開示を受け、そのIPアドレスがどのアクセスプロバイダのものなのかを特定した上で、今度はアクセスプロバイダに開示請求を行います。アクセスプロバイダでは当該IPアドレスとタイムスタンプ(投稿時間、接続開始・終了時間)を照合することで利用者を特定することが可能です。

このように、最低でも2段階の開示が実現して初めて発信者の素性を特定することが可能になります。詳細は省きますが、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダの間に別のサービスが介在していると問題はさらに厄介になります。

また、発信者が商業施設や公共のサービスを利用して接続していた場合、IPアドレスでたどれるのはアクセスプロバイダまでです(利用者自身が契約しているわけではないため)。客の利用履歴の管理を徹底している店舗が利用されたケースなどを除けば、発信者特定のハードルは非常に高いと言わざるを得ません。

開示請求には迅速な対応が必要

プロバイダはIPアドレスなどのユーザー履歴を数か月程度しか保存していないため、発信者特定は時間との戦いになります。

弁護士と連携し、証拠保全などに努めながら請求手続きを迅速に進めることが求められます。書き込みの把握が遅れた場合、同発信者のものと思われる誹謗中傷が新たに書き込まれるのを待ってタイミングよく手続きに踏み切るといった対応が必要になるでしょう。

発信者情報開示に関するプロバイダの責任

プロバイダ責任制限法(第4条第2項)によれば、開示請求を受け取ったプロバイダは発信者に連絡を取って開示に同意するかどうか尋ねる必要があります。同意が得られるか、返答内容から名誉毀損の事実が明白と判断できれば、プロバイダは開示に応じてくれるはずです。

返答がなかったり、そもそも発信者への連絡が不可能であったりした場合、プロバイダは請求者の主張や判例などを検討し、名誉毀損の事実が明白だと判断すれば開示に応じる可能性があります。しかし、実際には判断が難しい場合が多く、開示後に発信者から責任を追及されるリスクなども考慮して、判断を保留する(裁判所の判断を待つ)のが通例です。

プロバイダ責任制限法(第4条第4項)によれば、開示しなかったために請求者に損害が発生したとしても、プロバイダが賠償責任を負うのは「故意または重大な過失があった場合」に限られます。発信者情報はプライバシーに関わり、開示後の原状回復ができないなどの理由から手厚く保護されており、プロバイダの責任も相当に限定されるのです。

プロバイダへの開示請求と訴訟の流れ

発信者情報開示を請求するにあたっては「正当な理由」を立てなければなりません(プロバイダ責任制限法第4条第1項第2号)。例えば、「損害賠償請求に必要」「謝罪広告の要請に必要」などが正当な理由にあたります(※1)。

※1)総務省「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律――解説――」

https://www.soumu.go.jp/main_content/000671655.pdf 

まずはコンテンツプロバイダに対して書き込み投稿者のIPアドレスを開示するよう請求します。開示が拒否された場合は、当該発信者情報開示の仮処分を裁判所に申立てます。投稿者のIPアドレスは損害賠償請求などの権利を保全するために必要であるため、民事保全法に基づき仮処分を求めることが可能なのです(ただし相応の担保が必要です)。

投稿者のIPアドレスが得られたら、それをもとにアクセスプロバイダを特定します(これはすぐにわかります)。そして当該プロバイダに対して発信者情報(氏名・住所など)の開示を請求するとともに、アクセス履歴の消去を防ぐための処置をとります(発信者情報消去禁止の仮処分など)。

発信者情報開示に応じてもらえなかった場合はアクセスプロバイダを相手方とする発信者情報開示訴訟に踏みきります。本人の素性はIPアドレスよりも手厚く保護されるため仮処分で開示を求めることは困難です(※2)。

※2)総務省「発信者情報開示請求権に関する仮処分の在り方について」

https://www.soumu.go.jp/main_content/000101984.pdf 

削除請求の方法

書き込みの削除を請求する場合はコンテンツプロバイダまで遡れば十分であるため、発信者情報開示にくらべれば事が単純です。

削除請求に関するプロバイダの責任

プロバイダ責任制限法(第3条第2項)によると、権利侵害の事実が相当明白であるか、削除に関して発信者の意向を照会したにもかかわらず7日経過しても返答がなかった場合には、削除を行ったことで発信者に損害が生じてもプロバイダは賠償責任が問われません。

名誉毀損の場合、一般的に次の3条件をともに満たせば違法性がないとされます。

当該行為が

(1)公共の利害に関する事実にかかわり

(2)もっぱら公益を図る目的でなされ

(3-1)事実を提示して行われた場合、提示された事実の重要な部分については真実であるか、そう信じるだけの相当の理由が存在した。

(3-1)意見・論評の表明であった場合、それの基礎となった事実の重要な部分については真実であるか、そう信じるだけの相当の理由が存在した。

この線引きは曖昧になりがちで、とくに公的存在と目される法人が請求者の場合は判断が難しいと考えられるため、業界団体が策定したガイドライン(※)では請求者が法人の場合は発信者に意向を尋ねてから判断することを推奨しています。

※)一般社団法人テレコムサービス協会 プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会「プロバイダ責任制限法 名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」

https://www.telesa.or.jp/ftp-content/consortium/provider/pdf/provider_mguideline_20180330.pdf 

プロバイダへの削除請求と削除請求仮処分申立て

業界団体のガイドライン(上記)ではサイト上に削除請求対応窓口を設けることを推奨していますが、そうした窓口などを通して行われた削除請求に任意で応じる例は多くありません。

削除請求が拒否された場合には、書き込みが残存することで生じかねない「著しい損害または急迫の危険」を主張して削除請求の仮処分(民事保全法による「仮の地位を定めるための仮処分」)を申し立てるのが一般的です。訴訟を提起するよりも短期間で結果を得ることができます。

発信者情報開示はなぜ実現しにくいか?

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最後に、総務省の研究会(※)の議論などを参照しながら発信者情報開示の問題点を整理し、改正をめぐる意見の一端を紹介します。問題には技術的な面と法的手続きの面があります。

※)総務省 発信者情報開示の在り方に関する研究会

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/information_disclosure/index.html 

発信者特定の技術的問題

発信者特定のための第一の証拠と見なされるのは投稿時のIPアドレスですが、これだけでは特定にいたるのが非常に困難、または不可能なケースが多々あります(ひとつは上に述べたように発信者が公共のインターネットなどを利用した場合)。

省令では次の情報が開示対象とされています(平成十四年総務省令第五十七号)。

  • 発信者の氏名または名称、住所、メールアドレス
  • 侵害情報に係るIPアドレス
  • 上記IPアドレスに組み合わされたポート番号(平成27年改正で追加)
  • 侵害情報に係る携帯電話・PHSの利用者識別符号、SIMカード識別番号(平成23年改正で追加)
  • 侵害情報が送信された年月日と時刻(タイムスタンプ)(平成23年改正で追加)

割り当てられるIPアドレスが刻々と変動する方式(動的IPアドレス)に対応するためにタイムスタンプが追加され、モバイル機器による書き込みに対応するためにSIMカード識別番号などが追加されました。

「ポート番号」というのは、1つのIPアドレスを複数ユーザーが共有している場合に使われる識別番号です。利用者人口に比してIPアドレス数が「枯渇」していることなどを背景に、IPアドレス共有技術が多々開発されています。法令はこうした技術や産業の動向に遅れてついていくことになるのが通例です。

近年において開示の是非が問題になっているのが「ログイン時のIPアドレス」です。「侵害情報に係る」は基本的には「投稿時の」という意味に解されていますが、代表的なSNSサービスなどでは投稿時のIPアドレスを保存せずログイン時のIPアドレスのみ保存しているという実態があります。

現時点(2020年6月4日現在)では高裁の判決が分かれており、最高裁判決はまだありません。投稿直前に行われたログインのIPアドレスは開示が認められる傾向があります。

また、アクセスプロバイダから海外のサービスを経由して(それによりIPアドレスを隠して)コンテンツにアクセスする例もあり、対応を困難にしています。

法的手続きの問題

プロバイダ責任制限法は「権利侵害が明白」であれば任意に発信者情報を開示するように促す一方で、プライバシーや通信の自由への配慮から発信者情報を手厚く保護し、プロバイダの責任を限局するというつくりになっています。そのためプロバイダは放置するリスクよりも発信者に対する権利侵害のリスクを重く見がちであると指摘されます。

「権利侵害の明白性」を判断するには判例が要となりますが、判例の蓄積で「明白性」の線引きが明確化したとは言えない状況です。

コンテンツプロバイダは個人特定に直結しない情報(IPアドレス関係)以外の開示を拒否する傾向がありますが、SNS・ブログサービスなどでは携帯電話番号を登録している場合が多く、迅速な開示を実現するためには携帯電話番号を省令で開示対象に含めるべきだという議論があります(携帯電話番号がわかれば携帯会社への弁護士照会によって発信者を特定することも可能であるため)。

コンテンツプロバイダなどが海外法人である場合、国内法人を相手方とする場合以上に法的手続きに時間と手間がかかるという問題もあります。

長期的な観点では、匿名裁判の導入など、民事訴訟法を初めとした法律の改正を求める声も上がっています。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライアンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。
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