会社がオフィスを借りる際に留意すべき点について

2020/06/10 09:00
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

1 会社がオフィスを借りる場面

会社は、設立登記を行う段階で、本店所在地の登記が必要になります。この場合、発起人の自宅住所を登記する方もいますが、大半は、新しくオフィスを賃借して登記することになります。

また、会社の規模が拡大して、従業員数が増えれば、新たに広いスペースが必要になります。このような場合にも、新しくオフィスを賃借しなければなりません。

上記のように、オフィスは、会社を経営するにあたって、必要不可欠な要素といえます。

それにも関わらず、会社がオフィスを賃借する際に、賃貸借契約書を入念にチェックしなかったがために、後ほど大きな問題が生じてしまうケースが良くあります。

本稿では、上記のような問題を未然に防ぐために、会社がオフィスを借りる際に留意すべき点について説明いたします。

2 賃貸借の目的となる物件について

会社がオフィスを借りる際、会社と不動産オーナーとの間で、賃貸借契約を締結することになります。そして、会社と不動産オーナーは、賃貸借契約書を確認して、署名押印をすることになります。

この賃貸借契約書には、契約内容を明確にするために、賃貸借の目的となるオフィスの物件情報が記載されます。

まず、会社としては、賃貸借契約の目的となるオフィスの物件情報や権利関係が、登記情報やオーナーから従前提示されていた資料等と齟齬がないか、入念にチェックするようにしましょう。

そして、万が一、賃貸借契約の目的となるオフィスの物件情報や権利関係が、登記情報やオーナーから従前提示されていた資料等と齟齬がある場合には、速やかに契約内容の補正を求めましょう。

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3 オフィスの使用目的について

次に、賃貸借契約書には、オフィスの使用目的が記載されています。

例えば、賃貸借契約書には、「本物件は、会社の事業用事務所として使用する」などと記載されることがあります。

このオフィスの使用目的は、会社と不動産オーナーとの間で締結された賃貸借契約の内容となります。そのため、仮に会社が賃貸借契約に記載された目的内容と異なる形態で使用する場合には、債務不履行となり、オーナーから、目的外使用での解除を求められる可能性もあります。

したがって、上記のようなトラブルを未然に防ぐためには、会社と不動産オーナーとの間で、使用目的を入念に協議し、相互に齟齬がないようにすり合わせることが重要です。

4 契約期間について

賃貸借契約書には、契約の存続期間が記載されています。

会社と不動産オーナーとの間で締結される契約が通常の建物賃貸借の場合、賃借人保護の観点から、契約期間満了後も、自動更新又は法定更新がなされ、当初の賃貸借契約と同様の内容にて、契約が継続される事が多いです。

そのため、賃借人は、特段の手続きを踏まなくても、賃貸借契約を容易に継続することができる場合がほとんどです。

一方、会社と不動産オーナーとの間で締結される契約が定期建物賃貸借契約の場合、通常の賃貸借契約とは異なり、契約期間満了後に、会社と不動産オーナーが改めて定期建物賃貸借契約又は通常の賃貸借契約を締結しなければ、オフィスを賃借し続けることができません。

したがって、会社と不動産オーナーとの間で締結される契約が定期建物賃貸借契約である場合には、契約期間満了後には、当該オフィスを退去しなければならない可能性が高いですので、しっかりと将来のオフィス移転計画を立てた上で、契約を締結する必要があります。

5 賃貸借契約継続中の賃料変更

一般的に、賃貸借契約書において、賃料について明確に合意しても、賃貸借契約継続中に生じた種々の事情により、賃料を改定しなければならない事態が発生することがあります。

このような場合、民法第611条は一部滅失等による賃料減額について定め、また、借地借家法第32条は、賃料増減額請求権について定め、賃貸借契約継続中の賃料変更を認めています。

もっとも、賃貸借契約中には、賃借物の一部滅失等により使用収益できない場合の賃料減額に関する取り扱いが明記されているケースがありますので、民法の定めがあるからといって、この点のチェックを怠ってはいけません。

また、定期建物賃貸借契約の場合、賃料増減額請求権を外す特約も有効です。そのため、会社がオーナーと締結する契約が定期建物賃貸借契約の場合には、賃料増減額請求権に関する特約の有無を入念に確認するようにしてください。

6 敷金について

敷金について、改正前民法では、その規定はありませんでした。もっとも、改正民法第622条の2は、以下のように敷金について定めております。

改正民法622条の2

1 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。

一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。

二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

そして、この敷金に関してよくトラブルになるのが、いわゆる敷引特約についてです。

この敷引特約とは、オーナー側から物件の明渡し時に、敷金の一部を差し引いて、賃借人に返還するという内容の特約です。一般的には、オーナーが、通常損耗による補修費用等を確保する名目で設けることが多い特約といえます。

この敷引特約について、長らく、賃貸人と賃借人との間で、消費者契約法第10条によって無効ではないかとの議論がありましたが、最高裁(最一小判平23.3.24民集65巻2号903頁)は、「敷引金の額が賃料の額等に照らし高額に過ぎるなどの事情があれば格別、そうでない限り、これが信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものということはできない」として、敷金の中から賃貸期間の長さに応じて月額賃料の2倍弱から3.5倍強程度の金額を差し引く敷引特約は、消費者契約法第10条によって無効とはいえないと判断しました。

上記判例により、敷引契約が無条件に無効となることはございませんので、会社としては、賃貸借契約中に敷引契約が存在する場合には、敷金の金額、敷引特約により差し引く金額等について、入念にチェックするようにしましょう。

7 契約終了事由について

賃貸借契約書には、賃貸借契約継続期間中に、賃貸借契約を終了させる条項について定めている場合が多いといえます。

そのため、賃貸借契約終了事由に関する条項の有無、その方法、条件、違約金の有無などについては、しっかり確認することが重要です。

また、一般的に、賃貸借契約書には、賃借人が賃借権の無断譲渡や無断転貸をした場合などに、オーナーが無催告で賃貸借契約の解除をすることができる事由が定められていることがあります。

この無催告解除条項は、賃借人にとって特に不利(無催告解除事由を改善しても、契約は解除されてしまうため。)な条項といえますので、会社としては、無催告解除条項の有無はもちろん、無催告解除事由についても入念にチェックするようにしましょう。

そして、無催告解除事由について納得がいかない場合には、オーナーと、無催告解除方法等について内容を修正するように協議しましょう。

8 原状回復義務について

一般的に、賃貸借契約書には、賃借人の原状回復義務の範囲が定められていることが多いです。

この点、改正民法第621条は、「賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年劣化を除く。(中略))がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う」と定めていますが、これは飽くまで任意規定であり、契約でこれと異なる内容を定めても有効です。

実際、この原状回復義務の範囲について、裁判例の中には、自然損耗、摩耗も原状回復の対象とするという特約も有効であると判断するものも存在します。

そのため、会社は、賃貸借契約書の原状回復義務の範囲をしっかり確認し、自らが負担する原状回復義務の範囲を明確にしておくことが重要です。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。