業務で使用する自動車

2020/11/11 09:47
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

Q: 業務において自動車を使用する場合、どのような点に注意をする必要があるのか教えてください。

A: 社用車や自家用車を業務に使用することを想定したご質問かと思われますが、従業員が事故を起こした場合にはその責任を会社が負わなければならない場合があります。社用車、自家用車それぞれにつき別の規律があります。

これらの損害責任について保険等を検討するとよいでしょう。

民法等に基づく使用者の責任

法令上、個人の行為によって第三者等に損害が生じた場合には、当該行為を行った個人がその賠償責任を負うことが原則であり、行為者以外の者が責任を負う場合を法令は個別に規定しています。

その中で雇用関係がある場合について規定しているものとして民法715条(使用者責任)と自動車の損害賠償の場合に適用される自動車損害賠償法3条(運行供用者責任)の2つが関連しますので、本稿ではこれらの2つを紹介します。なお、これらはそれぞれ独立しており、片方の責任を負わないからといって他方の責任も負わないというわけではなく、いずれか一方でも要件を満たす場合には責任を負うことになりますので注意が必要です。

民法715条(使用者責任)について

〈民法715条〉

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない

事例との関連で本条が適用されるのは、例えば、従業員が社用車・私用車を問わず業務中に交通事故を起こしたなどの理由により第三者に対して損害賠償責任を負う場合が典型的であると考えられます。

自動車損害賠償法3条(運行供用者責任)について

自動車損害賠償保障法3条

自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない

本条は、会社が従業員に対して業務に供させる目的で社用車を利用させている場合に上記の使用者責任に加えて適用される可能性がある条文です。

undefined

社用車と私用車による区分

社用車の場合

従業員が社用車で交通事故等を起こしたために不法行為責任を負う場合、業務中であるか、業務時間外であるかによって規律が変わります。

1 業務中

業務中の社用車による事故の場合には、業務に関連して損害を生じさせたということになりますので、「事業の執行について」の要件も、「自己のために自動車を運行の用に供する者」の要件も満たしますので、(同条のその他の要件を満たしている限り)会社が使用者責任、運行供用者責任をそれぞれ負う可能性があります。

2 業務時間外

使用者責任の観点から検討すると、業務時間外であれば「事業の執行について」の要件を満たさず、民法715条は適用されないとも思われますが、「事業の執行について」の解釈は判例(最高裁昭和39年2月4日)で「広く被用者の行為の外形を捉えて客観的に観察したとき、使用者の事業の態様、規模等からしてそれが被用者の職務行為の範囲内に属するものと認められる場合で足りる」とされています。

つまり、実際は業務時間内ではないとしても客観的に見て職務行為に範囲内であると考えられれば使用者責任の要件を満たすということになります。その意味で、要件が緩和されていると考えることもできるでしょう。

次に、運行供用車責任の場合には、業務時間内かそうで無いかは原則として区別されず、社用車を用いていれば会社に運行供用者責任が生じることになります。しかし、例外的に当該従業員が社用車を無断でかつ私的な目的のために使用していた場合については、運行供用者責任を追及されないか場合もあります。

なお、通勤や退勤の際に従業員が事故を起こした場合、業務時間外であっても業務との連続性が認められるため使用者責任及び運行供用者責任を負う可能性があります。他方で不合理なルートを通ったことによる事故等のように業務との連続性が認められないような場合には責任を負わないと考えられます(なお、これは私用車を利用した場合であっても同様です。)。

私用車の場合

1 業務中

自家用車の場合であっても、業務中であれば使用者責任、運転供用者責任の要件を満たすと考えられるため、両責任を負うことになると考えられます。

2 業務時間外

他方で、業務時間外の場合には、使用者責任及び運行供用者責任は生じないと考えられます。というのも、私用車を使用しておりかつ業務時間外であれば、会社の事業とは無関係なものであるのが通常であり、私的な利用であると考えるのが通常であると考えられるからです。

しかし例外的に、使用者責任の上記の判例の規範に照らして、「広く被用者の行為の外形を捉えて客観的に観察したとき、使用者の事業の態様、規模等からしてそれが被用者の職務行為の範囲内に属するものと認められる」場合には使用者責任を問われる可能性は残りますのでご留意ください。

保険等の備え

このように従業員が事故を起こすかなどは予想できるところではありませんし、その損額の額についても予想するのは難しいと考えられます。

しかし、そのように不慮の事情についても十分な備えをしておくことが事業を遂行する上で必要になると考えられます。業務に関連して自動車を利用する場合には、会社で保険に加入することを検討したり、従業員の保険加入を確認するなどの措置を講じておくと良いでしょう。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。