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再雇用とその場合の賃金

2020/11/09 10:24
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

Q: 当社では定年退職者を対象に再雇用を行なっており、定年退職前の賃金から減額した金額を再雇用後の賃金としています。再雇用を行う際に再雇用前の賃金を求められた場合、定年退職前の賃金を支払う必要があるのでしょうか。

A: 定年退職前の賃金や手当(以下「賃金等」と言います。)と、再雇用後の賃金や手当との間の差異が不合理なものであると考えられる場合には、その差額相当の支払いを命じられる可能性がありますが、必ずしも賃金等を減額することができないわけではありません。

高齢者雇用安定法について

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「法」といいます。)は9条において(定年を65歳未満に設定している)事業者に以下の3つのうちのいずれかの措置を講じることを義務付けています。

1. 当該定年の引上げ

2. 継続雇用制度の導入

3. 当該定年の定めの廃止

法について厚生労働省は以下のQ&Aを公表しています。当該法令に基づく施策等について検討する場合にはこの内容についても加味する必要がありますので注意が必要です。

【高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)】

https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/kourei2/qa/index.html 

また、前提として法8条は定年の年齢を60歳以上とすることを義務付けており、60歳未満の定年を設定することを禁止しています。なお、高齢者が従事することが困難であると認められるものと厚生労働省が認めたものについては例外的に60歳未満の定年を設定することが許されています。

大半の企業においては定年が設定されており、かつ再雇用制度を導入しています。しかし、その場合はほとんどの場合定年退職前の賃金等よりも条件が引き下げられることが多いでしょう。

上記のQ&Aについて、一部今回の事例に関係する部分について抜粋の上解説を進めます。今回引用するのは同Q&AのQ1-9です。

(引用)

Q1-9

本人と事業主の間で賃金と労働時間の条件が合意できず、継続雇用を拒否した場合も違反になるのですか。

A1-9

高年齢者雇用安定法が求めているのは、継続雇用制度の導入であって、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく、事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、高年齢者雇用安定法違反となるものではありません。

このQAの中で触れられている通り、継続雇用制度の導入を求めているにすぎず、退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではないとされています。すなわち、退職前の条件と差を設けること自体は「事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示」していれば問題ないということになります。ここで、「合理的な裁量」とはどの程度のものなのかが問題になりますが、この点について当該Q&Aにおいては示されておらず、どの範囲であれば裁量の範囲内であるといえるのかは明確ではありません。

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同一労働同一賃金

2020年4月1日から、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(いわゆる「パートタイム・有期雇用労働法」)が施行されました(なお、同年4月から同法の適用を受けるのは大企業であり、中小企業への適用は1年後の2021年4月からとされています。)。

同法の概要については厚生労働省の以下のホームページがよく纏まっておりますのでご参考にしていただければと思います。

【「同一労働同一賃金ガイドライン」の概要】

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html 

また、詳細は以下の同一労働同一賃金ガイドラインの本文もご参照ください。

【同一労働同一賃金ガイドライン】

https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000469932.pdf 

(いずれも厚生労働省のホームページへのリンクです。)

本稿との関係では、「同一労働同一賃金ガイドライン」の概要②のスライド(同一労働同一賃金ガイドライン8頁)が参考になりますので、こちらを中心に解説します。

まず、パートタイム・有期雇用労働法は、定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者にも適用されることが明示されており、少なくとも、通常の労働者と定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者の賃金は同一の労働を行う場合には原則として同額である必要があり、賃金の相違については両者の職務内容及び配置の変更の範囲その他の事情の相違があればその相違に応じた賃金の相違は許容されるとされています。

そして同ガイドラインでは、退職後に継続雇用された者であるという性質について、以下のように記載されています。

「有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることは、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かを判断するに当たり、短時間・有期雇用労働法第8条のその他の事情として考慮される事情に当たりうる。定年に達した後に有期雇用労働者として継続雇用する場合の待遇について、様々な事情が総合的に考慮されて、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かが判断されるものと考えられる。したがって当該有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることのみをもって、直ちに通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理ではないと認められるものではない。」(下線部は筆者による。)

この記載からも、退職後継続雇用された者であっても原則として同一賃金とする必要があるものの、その他の事情として考慮される可能性があることがわかります。しかし、やはりどの程度の範囲であれば許容されるかは明確でなく、今後の判断の蓄積等が待たれるところと考えられます。

最高裁平成30年6月1日事件判決

本事例は定年後再雇用された従業員と通常の従業員との労働条件の相違が労働契約法20条に違反すると争われた事件です。この事件はパートタイム・有期雇用労働法施行前の判例ですが、考慮要素や結論など参考になるかと思いますので紹介します。

当該事件においては、業務内容や責任の程度、職務の内容・配置変更の範囲は通常の従業員と差はないことを認定しつつ、労働組合の交渉、退職金の支給内容等の幅広い事情が考慮されています。

そして結論として、正社員と比較して約80%まで減らされたことについて、基本給を含む大半の部分については不合理な相違ではないと認定しています(他方で、全出勤日に出勤した社員への手当である精勤手当が支払われないという相違については不合理な相違であると認定しています。)。

上記事例における検討

事例の検討に関連してパートタイム・有期雇用労働法においては9条において以下の規定を置いています。

「事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者…であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの…については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。」(一部略)

この規定から①職務の内容(業務内容や責任の程度)および、②職務の内容および配置変更の範囲について、通常の労働者と相違がない場合には同一の取り扱いをする必要があります。すなわち、これらの要素において差があるような場合には一定の範囲で雇用条件に差を設けることは許容されると考えられますが、これらの事情以外にも広範な事情が考慮されることになりますので、退職金等を考慮して差異を最低限度に留めるように調整する必要があると考えられます。

なお、基本給を離れた手当てを支給している場合には、上記の判例の判示を見ても個別にフォローしておく必要があると考えられます。

例えば、手当て支給の対象が(事由としては正社員に限られないものであるにもかかわらず)正社員に限定されているような場合には、その相違に合理的な理由がない場合には手当部分の相違が許容されない可能性があると考えられます。

そのため、上記事例においては、例えば管理職ではなくなったなどの配置の相違はあると考えられるところであるものの、基本的な職務内容が同一であれば賃金等の相違は最低限にするべきであると考えられます。他方で、上述の通り条件の合意ができない場合にまで継続雇用を行わなければならないというわけではありません。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライアンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。
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