管理職に対する残業代等の支払い

2021/03/12 18:42
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

Q: 当社は多数の支店を持っているのですがそれぞれの支店に店長をおいています。その店長から過去数年分の残業代を請求されました。当社では店長は管理監督者と位置付けているため、残業代等の支払いの対象としていません。この場合、請求された残業代の支払いを拒否しても問題ないでしょうか。払う必要がある場合には、その範囲についても教えてください。

A: 店長であるからといって残業代の支払いを拒むことはできないと考えられます。管理監督者に該当するか否かは、①労務管理上の使用者との一体性、②労働時間管理を受けているか、③基本給や手当等の観点からその地位にふさわしい処遇を受けているかが考慮されつつ、管理監督者該当性の判断がされています。

これらの観点から管理監督者に該当すると判断されれば残業代支払いの対象ではなくなりますので支払う必要はありません。他方で、これらの要素から管理監督者に該当しないと判断される場合には残業代支払いの対象になりますので支払わなければなりません。

1. 労働時間に関する原則

労働基準法(以下「法」といいます。)においては、使用者が労働者を働かせることができる時間について制限が課されています。これは労使関係を前提として使用者が労働力を搾取することを防ぐことを目的としておりますが、原則として1日あたり8時間、1週間あたり40時間が上限とされています(法32条)。

しかし、常にこの原則が適用されるとなると、例えば忙しい週と比較的余裕のある週に全く同じ時間しか労働させることができないというのは労働効率等を欠くことになると考えられます。また、突発的に対応しなければならない案件等が生じることも容易に想定できますので、一定の場合には例外的に上記の時間を超えて労働をさせることができることになっています。

一定の場合とは、法36条における労使間の協定(いわゆる三六協定)が結ばれ、それを労働基準監督署に届け出ている場合です。この場合には法定外労働時間を設定し、法定労働時間外に労働させることが可能になります。

2. 時間外労働と賃金

上記の通り労使間協定に基づいて労働者に法定労働時間を超えて労働させる場合には、給与に加えて、基本給の25%分に相当する割増賃金を支払わなければなりません。基本給が1500円(1時間あたり)の労働者に対してはその125%に該当する1875円を支払う必要があることになります。

この規律に違反した場合には、法119条1号に基づき6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課されることになりますので十分に注意しなければなりません。

undefined

3. 割増賃金支払いの例外

(1) 労働基準法41条の適用について

法41条は、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(2号)について、労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用を除外しています。

この規定の存在が誤って解釈され、インターネットなどを通じて拡散されてしまっている状況をよく目にしますが、この解釈は上記の通り割増賃金の支払いに関する非常に重要な規定ですので適切に理解しておかなければなりません。

まずは同条の解釈を見ていきましょう。そもそも同条の趣旨は、労働時間規制を超えて活動することが要請される重要な職務と責任を持っており、現実の勤務態様も労働時間規制に馴染まない者については、その地位の特殊性故に労働時間、休憩、休日規制を適用しないとすることにあります。

すなわち、職務や責任、勤務態様の観点からそもそも規制を及ぼす必要がない場合に限っては規制しないということです。例えばこれは「課長」のように一定の役職以上であれば適用されるというような形式的なものではなく、あくまでも実態に即して検討されることになります。そのため、事例でおける「店長」というような地位を有するから直ちに同条が適用されて、規制が及ばなくなるというわけではない点に注意が必要です。

(2) 「管理監督者」

では規制が適用されない「監督若しくは管理の地位にある者」(以下「管理監督者」といいます。)とは一体どのようなものをいうのでしょうか。この点の解釈は先例等も多くありますので必要に応じてそのような先例を確認することが非常に有益です。

具体的な認定をした裁判例(東京地裁平成20年1月28日)を見てみましょう。同事例では、「管理監督者に当たるといえるためには、店長の名称だけでなく、実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず、具体的には、①職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か、③給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべき」と、判断の基準になる要素が掲げられています。

やはり、法41条の趣旨を念頭に置きつつ、基準を掲げていることがわかります。これらの基準から分かる通り、管理監督者に該当する範囲は非常に限定的です。会社の規模によっては部長は該当するものの、別の規模の会社では部長は該当しないということは十分に考えられます。

管理監督者に該当するかについて一律に線引きを行うことは容易ではなく、個別具体的な事例に応じてそれぞれ判断を下す必要があることになります。しかし、上記の基準を参考にすれば、例えば人事等の重要な事項の決定権限もなく、かつ給与も他の従業員と大差がないということであれば管理監督者には該当しないと考えられるなど大きな枠組みとして理解することは可能であると考えられます。

管理監督者該当性が認められたものとしては、例えば採用や配置などの人事の重要な事項に関する決定権を有していた(病院の)人事課長や、6つの店舗を統括する業務を担っていたエリアディレクターなどが挙げられます。肩書からはどの程度の権限等を有するのかは判断がむずかしいところであり、肩書きでの形式的な決定は意味がないことがわかっていただけるかと思います。

4. 賃金支払いの範囲

過去の賃金等の支払いを請求される場合は十分に考えられますが、賃金債権についても消滅事項の規定がありますので、一定期間経過後には消滅事項により債務が消滅していることを理由として支払いを拒むことは可能です。

法115条は「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。」と定められています。

そのため、事例においては5年以上前のものについても請求されているような場合はその範囲では時効を主張して支払いを拒むことが可能です。なお、5年の消滅時効とされたのは2020年4月1日以降に支払い期日が到来するものとされており、それ以前のものは2年の消滅時効にかかります。

厚生労働省労働基準局から以下のQ&Aが出ており、経過措置に関する記載もありますのでご参照ください。

改正労働基準法等に関するQ&A 

https://www.mhlw.go.jp/content/000617980.pdf 

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。