残業代と代休の付与

2021/05/24 08:40
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

Q: 当社は時期による忙しさの差が大きく、繁忙期は残業する必要があるのですが、それ以外の時期は従業員も暇を持て余しています。そのため、残業代を支払う代わりに、従業員に対して休暇を与えるという形にしたいのですが可能でしょうか。

A: 原則としてそのような措置を取ることはできず、時間外労働に対しては割増賃金を支払う必要があります。

しかし、例外的に、月間に60時間を超える時間外労働が生じた場合、当該60時間を超過した部分については、賃金を支払う代わりに代替休暇を付与することが可能になる場合があります。

1. 時間外労働の取り扱い

会社と労働者(従業員)は、雇用契約を締結しているところ、労働者は会社に対して労働力を提供し、会社はその労働力に対する対価として賃金を支払うことになります。

そして、この労働者が提供する労働の内容は職種・業務・役職によって様々ですが、雇用契約を締結している場合に、会社が労働者を働かせることができる時間については法律で規定されています(法定労働時間)。

これは、過労死に代表されるように、過度な労働は労働者の心身の健康を害することになるため、労働者に余暇を与える必要があると考えられるためです。

しかし、会社が労働者と労使協定を結んでいる場合、例外的に法定労働時間を超えて労働者を働かせることができるとされています。この協定は一般的に36協定といわれています(労働基準法36条に規定されているためです。)。そして、この時間外労働に対しては、割増賃金を支払わなければならないとされています。

そのため、時間外労働への対価はあくまでも割増賃金であり、有給休暇を付与するという形ではその対価とはならないことになります。もちろん、サービスとして有給休暇を与えるということは可能ですが、時間外労働に対する対価である割増賃金を支払わなくて良いということにはならないのです。

2. 例外的に代替休暇を付与することができる場合

上記の通り、原則として有給休暇を与えることで割増賃金の支払いを免れることはできないことになります。しかし、労働基準法は例外として一定の場合に割増賃金の支払いに代えて代替休暇を付与することを認めています。

該当する条文をご紹介すると以下の通りです。

労働基準法37条3項(抜粋)

使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合…との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇を…与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、…時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして…割増賃金を支払うことを要しない。

労働基準法施行規則19条の2第1項(抜粋)

使用者は、法第三十七条第三項の協定…をする場合には、次に掲げる事項について、協定しなければならない。

一 法第三十七条第三項の休暇…として与えることができる時間の時間数の算定方法

二 代替休暇の単位…

三 代替休暇を与えることができる期間…

読みやすさの観点から抜粋しておりますが、労働基準法において一月あたり60時間を超える時間外労働に対して割増賃金を支払わなければならない場合(これが「第一項ただし書の規定により割増賃金を支払う」場合になります。)においては、労使協定で、①休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法、②代替休暇の単位、③代替休暇を与えることができる期間を定めることで、残業代の支払いに代えて代替休暇を付与することが認められています。

代替休暇を与えることができる期間は、当該月の賃金の支払いと関係するところですが、必ずしも賃金計算期間に合わせる必要はありません。しかし、割増賃金を支払っていないにもかかわらず労働者が代休を取得していないという状況は望ましくないため、例えば代替休暇を取得することになってから一定の期間(1ヶ月、2ヶ月等)内に労働者の意向等について確認を行い、取得を促す・取得日を決めておくなどとすることが望ましいと考えられます。

上記の通り、一定の場合には例外的に残業代に代えて代休を付与することが可能ですが、認められる場面は限られているため、柔軟に運用することは難しいと考えられます。そのため、原則として残業代を支払うという運用を行いつつ、月の残業代が60時間を超えたような場合には代休を付与することで残業代の支払いに代えるという形で、労使協定等を締結しておくのが良いでしょう。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。