勤務時間外における行事における従業員のけがと労災

2020/07/10 11:15
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

Q:従業員を含めて、勤務時間外に開催したバーベキューにおいて、従業員が怪我をした場合、当該怪我が労働災害として認定されることはあるのでしょうか。

A:勤務時間外における活動であっても、労働災害と認定される場合はあります。しかし、労働災害と認定されると考えられるのは、①当該イベントが強制参加などであった場合や、②怪我をした従業員がイベントの主催的な立場にいた場合などの限られた事情があるときと考えられますので、労働災害と認定される可能性は高くないと考えられます。

1. 労働災害

(1)総論

労働災害とは「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下、総称して「負傷等」といいます。)」をいうとされています(労働者災害補償保険法7条1項1号)。

すなわち、労働者が、「業務上」に負った負傷等である必要がある、すなわち業務起因性が必要です。では、業務起性が認められるためにはどういった事情が必要になるのでしょうか。この点、法律上の定義があるわけではありませんが、判例において、当該労働者の業務と負傷等の間に、業務に内在または随伴する危険があり、その危険が現実化したといえるような因果関係が必要です。

なお、業務における危険が現実化したかは具体的な負傷等の種類により異なり、また、職業の性質によっても異なりますので留意が必要です。

また、実務上、労働者に負傷等が生じた場合、負傷等の原因が「労働者の労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態」において発生したこと、いわゆる業務遂行性が要求されると考えられており、これが第一次的な判断基準とされています。

undefined

(2)業務遂行性

では、業務遂行性の判断はどのようになされるのでしょうか。この判断の前提として、問題になる類型に分けた上で、それぞれの類型について確認・検討を加えようと思います。

  1. 使用者による支配・管理下で業務に従事している際に負傷等が生じた場合
  2. 事業主の支配・管理下にあるが業務には従事していない場合
  3. 事業主の支配・管理下を離れて業務に従事している場合

まず、①については、基本的に所定労働時間内や残業時間内に事業場内において業務に従事している場合が該当すると考えられますが、特段の事情がない限り労働災害と認定されることになると考えられます。この場合には、業務遂行性が認められることは明らかであることが多いといえるでしょう。

本記事においては、②が問題になる場合であると思われますので、②は以下において詳述します。

次に③については、例えば出張や社用での事業場施設外で業務に従事している場合が該当すると考えられますが、こちらも支配・管理を離れてはいるものの、あくまでも業務に従事していることになりますので、特段の事情(積極的に私的行為を行なっていたなど)がない限り労働災害と認定されると考えられます。

(3)類型②について

では、本記事の冒頭の事例で問題になると考えられる②について確認していきましょう。

まず、典型的な②に該当する場面は、昼休憩中や就業時間後における活動が挙げられます。しかし、これらは基本的には業務を行なっているわけではなく、単に私的活動を行なっていると考えられるため、私的行為に起因して生じた負傷等については業務遂行性が認められないので、労働災害認定は基本的にされません。

しかし、このような就業時間外における活動であっても、会社の業務であると考えられる場合、すなわち、当該就業時間外の活動が事業主の支配下にあるといえる場合には業務遂行性が認められることになりますので労働災害認定される可能性があります。例えば、会社の業務の一環としての行事について幹事として企画や運営に当たった社員は業務遂行性が認められることになるでしょう。

それ以外の、幹事等の役割を担っていない、単に行事に参加しただけの社員については、その行事の性質等を総合的に勘案の上業務遂行性が判断されることになると考えられるところ、特別の事情がない限りは業務遂行性は認められず、労働災害認定はされないと考えられます。

この、参加者としての社員の業務遂行性について「特別の事情」の有無は過去の裁判例が参考になりますので概要を紹介します。

undefined

最高裁平成28年7月8日

〜事案の概要〜

Xは、親会社から子会社Aに出向していた。平成22年12月6日、A社の部長Bは、従業員の歓送迎会を企画し、全従業員に声をかけた。しかし、Xは期限を控えた資料を作成する必要があるため参加を拒んだ。しかし、Bは歓送迎会に顔を出してほしい旨Xに伝え、歓送迎会終了後にはXの資料作成を手伝うと伝えた。当日、Xは歓送迎会開始後も会社に残り資料作成を続けていたが、作業を一時中断し歓送迎会に参加した。歓送迎会終了後、Xは他の従業員をその居住するアパートまで送った上で会社に戻るため、自動車を運転していたが、その途中、対大型貨物自動車と衝突する交通事故に遭い死亡した。

〜判断〜

第一審及び第二審においては、歓送迎会は親睦を深めるための私的な会合であり、業務遂行性がなく、労働災害認定されていません。しかし、最高裁は、XはBによる誘いがあったため歓送迎会に参加せざるを得ず、業務再開のために会社に戻らなければならなかったこと、歓送迎会はBによる企画であり、会費会社の経費から支払われていたこと、他の従業員をアパートまで送迎することは当初Bにより行われることが予定されていたものであり、Xがこれを行ったことは会社から要請された一連の行動の範囲内といえること等を考慮し、本件事故に業務遂行を認めました。

〜検討〜

本件では、場所的には社外、時間的には就業時間外である歓送迎会に関連して生じた事故について業務遂行性が認められています。上記の通り重視されているのは、参加について任意性が認められていたかという点であると考えられます。しかも、単に社内のルールとして参加が強制されていた、というような事情があるわけではなく、あくまでも行事前における個別の具体的な事情を詳細に検討・考慮していることも、事件の事情を個別具体的に検討するという判断の枠組みが示されたといえるでしょう。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。