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従業員の退職と有給休暇

2020/09/05 19:24
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

Q: 従業員Aが退職を求めて退職届を提出してきました。その対象届は、二週間後を退職日とするものでしたが、当社の就業規則では1ヶ月以上前に退職届を提出することを定めています。

また、退職に伴う手続きや事務作業、当該従業員が受け持っている仕事の引き継ぎを行う必要があるため、退職前に過度な有給休暇の取得を認めないこととしています。このような場合に、当該退職届及び有給取得は有効になってしまうのでしょうか。

A: 就業規則において一定の期間を定めていたとしても、その期間より短い期間で雇用契約が終了することはあり得ます。しかし、あくまでも例外を許容しないわけではありませんので、私的な合意により修正することは可能です。

また、当該従業員が有給休暇を消化しきっていない場合には、就業規則の異なる内容の定めがある場合であっても有給休暇の取得を認めざるを得ない場合があります。

1.労働者の性質と法の適用関係

労働者は正社員やパートタイマーなど、その働き方や契約関係に応じて幾つかの類型に分類することができます。

そして、その類型に応じて、退職の申し入れから退職までの期間に関する法律等の条項が異なり、就業規則と法律や法律同士など、その間で矛盾が生じることがあり、その場合には退職の申し出から退職までの期間が最も短いものとする規定が適用されることになります。これは労働関係法令が第一に保護することを目的としているのは労働者の利益だからです。

以下、①パートタイマーなど、②雇用期間の定めのない労働者、③雇用期間の定めのある労働者、の3つの類型に分けて解説します。

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(1) ①パートタイマーなど

この項では、パートタイマーや日雇い労働者など雇用期間の定めがない契約に基づき、時給や日給などの形で給与が支払われる雇用形態を想定し解説します。

このような契約の場合、民法627条1項により、「解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了」することになります。

上記の事例においてAがこの類型に当てはまる場合には、就業規則等において二週間以上の期間を定めていたとしても、二週間という期間が経過したときに終了することになります。そのため、就業規則の定めにかかわらず退職の申し出を受けざるを得ないことになります。

(2) ②雇用期間の定めのない労働者

この項では、雇用期間の定めがない契約を締結しており、かつ、月給制によって給与が支払われている(期間によって報酬を定めている)雇用形態を想定し解説します。

この類型の労働者については、民法627条第2項において「期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以降についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない」と定められています。

しかし本規定は、平成29年の民法改正において、使用者側からの申し出についてのみ適用されることとされ、労働者側からの申し出においては適用されないことになりました。労働者からの申し出の場合には、そのため、上記の事例との関係においては、627条第1項が適用されることになりますので、①と同じ形で労働契約が終了することになります。

〈参考_使用者による労働契約の終了〉

以下では参考までに、使用者側から労働契約の解約の申し出をする際の同条の適用について解説します。

この類型では、給与の計算期間(始期と終期)が重要な意味を持つことになります。具体的な数字を設定して考えてみましょう。たとえば、会社における給与の計算期間が毎月1日から当該月の末日までの会社を想定します。

この場合、当期に該当するのは3月であれば3月1日から3月31日までということになります。そして、その「前半」というのは、3月1日から3月16日までをいうと考えられています。

つまり、この会社において3月中の退職を使用者が望む場合には、3月1日から3月16日までに労働契約の解約申し入れなければなりません。

「前半」に解約の申し入れをしなかった場合(上記の例でいえば3月17日以降に申し入れを行なった場合)には、4月末日での退職ということになります。

(3) ③雇用期間の定めのある労働者

この項では、例えば契約社員のような雇用契約の期間が定められている雇用を想定し、解説します。

労働契約に関連する628条は以下のような規定となっています。

「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。」

雇用の期間を定めた場合には、当然、その期間の満了が終了のタイミングとなるため、中途での契約終了は両当事者にとって不意打ちとなるものであり、原則として認められるものではありません(もちろん、両当事者で合意の上終了させることは可能です。)。

そこで、民法では期間の定めのある契約については「やむを得ない事由」がある場合に限り雇用契約の終了を認めています。

しかし、雇用契約で期間を定める場合であっても、その期間が長期に渡る場合には状況が変化することは当然であり、常に契約を終了できないとするのはかえって当事者の期待を裏切ることになりかねません。そこで、労働基準法附則は137条において(i)雇用期間が1年以上の契約で、(ii)契約の締結から1年が経過した場合には、その日以降いつでも退職の申し出をすることができる旨を定めています。

すなわち、1年が経過した場合には、契約を終了させるハードルが低くなることになりますが、あくまでも就業規則の退職に関する定めの適用を受けることになります。いつでも終了させることができるとはいえ、なんらの手続きも経る必要がないというわけではありません。お互いに不意打ちにならないよう配慮しなければなりません。

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2.有給休暇について

(1) 有給休暇の取得

そもそも有給休暇とは一定の要件を満たす労働者が取得できる労働者の権利です。具体的には労働基準法39条1項において、「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない」と定められています。すなわち、①雇い入れの日から6ヶ月間継続して勤務していること、②全労働日の8割以上出勤したことを満たす場合には、当該労働者に有給休暇を付与しなければなりません。

(2) 有給休暇に関する「時季変更権」

労働者が有給休暇の取得を希望した場合には使用者は原則として有給休暇を付与しなければなりませんが、常にどのような条件でも有給休暇を受け入れなければならないとすると、業務の遂行に影響が生じる恐れがあります。そこで、使用者には時季変更権が認められています。

「時季変更権」とは事業の正常な運営を妨げる場合に限り、労働者が希望する有給休暇の取得時期を変更する権利のことです。そして、「正常な運営を妨げる場合」については最高裁が判断しており、従業員が有給休暇を取得しなければ提供されるはずの労働が、その事業の運営に不可欠であり、かつ、通常考えられる相当の努力をしても代替要員を確保することが困難という客観的事情がある場合をいうとされています(最判昭和60年3月11日)。

(3) 有給休暇の取得制限

上記の通り、業務との兼ね合いで有給の取得を調整する権限は使用者に与えられています。しかし、上記の権限はあくまでも「時季変更権」であり、取得を制限することを内容とするものではありません。つまり、変更させる先の期間(休暇の変更先)がないような場合には、時季変更権の行使はできないということになります。

したがって、退職日が決まっている労働者が労働提供義務を負担するのは、退職日までの期間のみであるところ、退職日までの期間までの日数よりも多い未消化の有給休暇を保有している場合には、退職届の提出から退職までの期間についての有給休暇の取得を認めるほかありません。

このような意味で、使用者側が退職する労働者の有給取得を制限することはできないといえます。しかし、例えばあくまでも任意の合意によって退職の時期をずらしてもらうなどすることで引き継ぎの期間や人員の補充のための期間を確保するということは可能ですので労働者に協議するなど適切な方法をとることにより対応することは可能です。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライアンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。
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