1 契約自由
国際取引についてご説明する前提として、民事法の大原則、契約自由の原則についてご説明します。
これは私的自治の原則ともいい、契約の内容は原則として、契約の当事者が自由に決めることができるという原則です。これは、国際取引、つまり外国の企業や個人と契約を締結する場合も同様です。
契約内容によって、売買契約であれば目的物をいくらで買う、賃貸借契約であれば部屋や土地をいくらで借りる、代理店契約であれば商品・サービスの販売を代行する、といった内容を定める必要があることは、国内の契約でも、外国の企業や個人を交えた契約であろうが同じです。
さて、専ら国内の当事者同士の契約につき、契約に定めのない事項が生じ、当事者の協議で決定ができない場合は、通常日本国法が適用されて解決されます。また、紛争になった場合には、通常、日本の裁判所で争われます。
もっとも、外国の企業や個人と契約を締結した場合は、上記の通りにはいきません。日本に住む者としては、日本国法に従って、日本の裁判所で裁判したいところですが、外国の企業や個人はそれぞれ自国の法律に従って自国の裁判所で裁判することを望むのが通常です。
自国の法律に従い、自国の裁判所で争った方が、弁護士や裁判官とのコミュニケーションが容易であることから、外国の法律に従って外国の裁判所で争うより有利で、それが裁判の結果に影響することも少なくありません。
そのため、外国の企業や個人と契約を締結する場合、上述のような「どんな目的物をいくらで買う」といった契約の内容に加えて、契約自由の原則に従い、どこの国の法律に従ってどこの裁判所で裁判するかについても契約で決めることになります。
そして、通常は、交渉上立場の強い当事者に有利になるように決まることになります。
なお、仮に国際取引において適用される法律又は争われる裁判所が契約において定められていない場合は、法の適用に関する通則法、国際民事訴訟法に従って定まることになります。
2 契約言語
上述した契約自由の原則は、契約の言語をどうするかという点にも及びます。
契約書は何語で記載されていても問題なく、例えば、国内の当事者同士の契約がドイツ語であっても全く問題ございません。
国際取引の場合は、通常交渉上立場の強い当事者の言語が使用されることになります。
もっとも、当事者の一方の言語で契約書を作成し、他方の当事者の言語にも翻訳することはよくあります。その場合、どうしても翻訳の解釈の疑義が生じ、どちらの言語の契約書に従うべきか争いになり得てしまうので、解釈に疑義が生じた場合はどちらの言語の契約書が優先するかを契約書内に明記することが通常です。
3 契約自由の原則の例外
上述したように、契約に適用される法律は契約自由の原則に従い当事者が自由に決めることができます。そのため、外国の当事者と契約を締結する場合であっても、こちらが交渉上有利な立場にあれば、日本法を適用される法律とすることで、原則として日本国内の契約と同様に契約関係を構築することができます。
もっとも、前述した法の適用に関する通則法は、国際取引にどの国の法律を適用するかにつき、契約自由の原則の例外を定めています。
契約自由の原則の例外はいくつかありますが、特に注意しなくてはならないのが消費者契約の特例です。
事業者(企業等)と個人の消費者との間の契約については、立場上弱い消費者を保護する必要があることから、契約で適用される法律が定められていたとしても、消費者が自国の強行法規の適用を望んだ場合は、強制的にその法律が適用されます。
強行法規とは、契約当事者の意思にかかわらず強制的に適用されてしまう規定です。代表的な日本の強行法規は民法第90条の公序良俗の規定です。
4 まとめ
以上、国際取引の注意点をまとめると、まず、日本国内の当事者同士の契約と異なり、どちらの国の法律が適用され、どちらの国の裁判所で争うのかを定める必要性が高いです。また、外国の消費者と取引する際は、強制的に適用される外国の法律があるので注意する必要があります。
最後に、付言すると、日本の契約書では、「当事者間で誠実に協議する。」という定めを契約随所ですることが多いですが、海外、特にアメリカでは、かかる定めを嫌うことが多いように思います。こういった契約内容の厳密さの意識の違いを把握しておくことは、国際取引の契約書を作成する上では重要と思います。