旧民法及び改正民法における債権の消滅時効

2020/06/10 09:00
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

1 時効制度とは

まず、消滅時効とは、一定期間権利行使しないことにより、権利を消滅させる制度です。

時効制度の趣旨としては、

  1. 永続した事実状態の保護(社会の法律関係の安定のために、一定の期間継続した事実状態を覆さないこと)
  2. 権利の上に眠れる者は保護しない(時効制度は、権利者の権利不行使に対する制裁であること)
  3. 証明困難の救済(時効制度は、証明困難の救済であること)

の3つであると考えられています。

2 旧民法における消滅時効について

(1)債権の基本的な消滅時効期間について

まず、旧民法第166条第1項は、「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。」と規定し、権利を行使することができる時を時効の起算点としています。

また、旧民法第167条第1項は、「債権は、十年間行使しないときは、消滅する。」と規定し、債権の基本的な消滅時効期間を10年と定めています。

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(2)短期消滅時効について

権利関係を迅速に確定するとの要請から、旧民法、商法、その他法律には、債権の基本的な消滅時効期間より短い期間で時効が成立する場合があります(短期消滅時効)。

短期消滅時効の具体例は以下のとおりです。

ア 5年の短期消滅時効

  • 追認できる時からの取消権(旧民法第126条)
  • 年金・恩給・扶助料・地代・利息・家賃・賃借料などの定期給付債権(旧民法第169条)
  • 財産管理に関する親子間の債権(旧民法第832条)
  • 商事債権(商法第522条)
  • 相続回復請求権 相続権を侵害された事実を知ったときから(旧民法第884条)

イ 3年の短期消滅時効

  • 医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権(旧民法第170条1号)
  • 工事の設計、施工又は監理を業とする者(技師・棟梁・請負人などが該当)の工事に関する債権(工事終了のときから3年)(旧民法第170条第2号及び旧民法第170条柱書ただし書き部分)
  • 弁護士・弁護士法人・公証人の職務に関して受け取った書類についての義務に対する権利(旧民法第171条)
  • 不法行為に基づく損害賠償請求権(損害および加害者を知ったときから3年)(旧民法第724条、製造物責任法第5条)
  • 為替手形の所持人から引受人に対する請求権(手形法第70条第1項)
  • 約束手形の所持人から振出人に対する請求権(手形法第77条第1項第8号)

ウ 2年の短期消滅時効

  • 弁護士・弁護士法人・公証人の職務に関する債権(旧民法第172条)
  • 生産者・卸売または小売商人の売掛代金債権(旧民法第173条1号)
  • 居職人・製造人の仕事に関する債権(旧民法第173条第2号)
  • 学芸・技能の教育者の教育・衣食・寄宿に関する債権(旧民法第173条3号)
  • 詐害行為取消権:債権者が取消しの原因を知った時から(旧民法第426条

エ 1年の短期消滅時効

  • 月又はこれより短い期間で定めた使用人の給料(旧民法第174条1号)
  • 労力者(大工・左官等)・演芸人の賃金ならびにその供給した物の代価(旧民法第174条第2号)
  • 運送費(旧民法第174条第3号)
  • ホテルや旅館の宿泊料・キャバレーや料理店などの飲食料(旧民法第174条第4号)
  • 貸衣装など動産の損料(旧民法第174条5号)
  • 遺留分減殺請求権(減殺すべき贈与、遺贈があったことを知った時から1年)(旧民法第1042条)
  • 運送取扱人の責任(商法第566条第1項)
  • 陸上運送人の責任(商法第589条)
  • 海上運送人の責任(商法第766条)
  • 船舶所有者の傭船者、荷送人、荷受人に対する債権(商法第765条)
  • 為替手形の所持人から裏書人や振出人に対する請求権(手形法第70条)
  • 約束手形の所持人から裏書人に対する請求権(手形法第77条第1項第8号)
  • 支払保証をした支払人に対する小切手上の請求権(小切手法第58条)

オ 6ヶ月の短期消滅時効

  • 約束手形・為替手形の裏書人から他の裏書人や振出人に対する遡求権または請求権(手形法第70条第3項)
  • 小切手所持人・裏書人の、他の裏書人・振出人その他の債務者に対する遡求権(小切手法第51条)

3 改正民法における消滅時効について

短期消滅時効は、債権の回収を妨げ、合理性も認められないので、平成29年の民法改正で廃止されることになりました。

具体的には、旧民法の債権の基本的な消滅時効期間である、「権利を行使することができる時から10年」という規定に加えて、「権利を行使することができることを知った時から5年」という規定が新設されました。

そして、上記いずれか早く期間が到達するときに、時効期間が満了することになりました。

なお、改正民法の施行は、令和2年4月1日からですので、それ以前に生じた債権については旧民法の規定が適用される点にはご留意ください。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。