社用メールのモニタリング

2021/04/05 12:52
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

Q: 従業員の利用している会社用メールをモニタリングすることは許容されますか。

A:

  1. 社内規程等においてモニタリング調査に関する定めがある場合には、当該規程を根拠にモニタリングすることは可能です。
  2. 社内規程等においてモニタリング調査に関する定めがない場合、必ずしも禁止されるわけではありませんが、従業員のプライバシーへ配慮をしつつ、許容される場合もあります。

1. 業務中のPCの私的利用

前回の記事(https://legal-online.net/columns/crisis-management/survey/company-pc)でも触れた通り、現在では多くの企業においてPCが必須の業務ツールとなっており、PCを利用した業務を行なっているといえるでしょう。 

2020年においては新型コロナウイルスの影響でリモートワークが一般的になり、社用のPCを従業員に貸与して業務を行わせている企業も増えました。PCは遠隔で作業を行えるという意味で非常に便利である反面、多くの作業を行えるために手元で何を行なっているのかがわからないという点を懸念されている企業も多いのではないかと思われます。従業員の労務管理等は別の問題として、家庭でのPC利用に伴い私的な利用をすることが起こり得ます。

業務時間中に業務に関係のないウェブページを閲覧していたというような場合には、職務専念義務に対する違反になり得ると考えられます。確かに、働き方は多様化しており、過去と比べて職務専念義務の程度は軽減されたものと考えられています。実際、(程度の差や態様の差はあるものの)副業を許容する(場合によっては推進する)企業も増えてきており、一つの企業に骨を埋めるという文化は失われつつあります。

もちろん副業は就業時間外に行うのが原則である場合など、必ずしも職務専念義務との関連性が強いものではないと考えられますが、社会的な変容は否定できません。

例えば、私用メールを1日あたり約2通行なっていたという行為について、職務専念義務違反にはならないとした裁判例があります(東京地裁平成15年9月22日)。この事例においてはあくまでも労働契約条の義務を果たしつつ、問題なく両立することが可能である範囲であったということが前提にされています。

2. モニタリング

1. モニタリングの根拠がある場合

その根拠に基づいてモニタリングを行うことになります。

2. モニタリングの根拠がない場合

根拠がない場合であっても、一定の場合には許容されると考えられています。No.79で触れた裁判例(東京地裁平成13年12月3日判決)について少し詳細に触れると、会社の備品で私的なメールを送信する場合には、従業員に一定のプライバシー権が認められることを前提としつつ、私的端末等に比べてその保護の程度は下がり、具体的な情況に応じた合理的な範囲での保護を期待し得るにとどまり、終局的には社会通念上相当な範囲を逸脱した場合には、プライバシーの侵害になるとしています。

これらを前提に、違反事由に関する調査を目的とすること(目的の重要性)や、従業員のプライバシーを侵害しないような形で行われていること等を総合考慮の上、社会的相当性を有していると判断できるような場合であれば、モニタリング権限に関する社内規程がなくてもモニタリングを行うことは認められると考えられます。

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3. 違反事由が発見された場合の処分

上記のモニタリングによって従業員に私的な利用等が発見された場合には、以下のような措置をとることが考えられます。

1. 懲戒処分

まず、私的利用を制限する内容の社内規程がある場合には、その違反が就業規則における懲戒事由とされている可能性があります。なお、労働法の一般原則も当然に適用されますので、単に懲戒事由に該当するだけでは懲戒処分を行えるというわけではなく、さらに処分の社会通念上の相当性も要求されますので、社会的相当性が認められないような処分は無効と判断される可能性がありますので注意が必要です。

会社のメール私的に利用することが直ちに懲戒処分が相当といえるような事情となることは(一定の悪質性を有するような場合を除いて)あまりないと考えられます。そのため、当初は戒告等の注意を行った上で、それでも違反を繰り返すような場合には懲戒処分を検討する形になるかと考えられます。

2. 賃金の控除

職務専念義務に違反していると判断された場合には、労務提供を怠っていた時間について賃金を減額することが考えられます。しかし減額を行う場合、具体的にどの程度の時間業務以外のことを行なっていたのかを正確に把握の上で減額する金額を決定する必要があります。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。