

Q: 当社では従業員にパソコンを貸与して業務上使用させています。勤務時間中に当社を内容とする書き込みがされたことが判明したのですが、その従業員を特定するために従業員には何も伝えずにPCの調査やモニタリングをすることは許されますか。
A: 告知なく調査やモニタリングを行うことは、プライバシーの観点、個人情報保護の観点から違法と評価される可能性があります。そこで少なくとも就業規則においてインターネット利用に関する規定を設けた上で、調査・モニタリングの実施前に社内PCの利用者から書面での同意を取得することが適切であると考えられます。
1. インターネットと社内規程
(1)インターネットの社内利用
現在では、多くの企業が社内でのPCやインターネットを利用しての業務を行っており、インターネットが不可欠な業種も多数存在します。インターネットは非常に便利であり情報の取得が容易である一方で、情報の発信も容易にするものであり、使い方によっては企業にとって毒にも薬にもなるような性質を有するものです。
また、インターネットサーフィン等は非常に時間を取られるものであるという性質もあり、企業としては従業員がどの程度インターネットを利用しているのかは関心のある事項であると考えられます。
例えば、終業時間内に業務と一切関係のないウェブページを閲覧することは、職務専念義務に違反すると考えられますし、秘密情報等を書き込んだり漏洩したりする場合には懲戒の対象となるでしょう。
そこで、企業としてはインターネットの利用に関する規定を設けることで業務と関連のない目的での利用を制限することが可能になります。
(2)インターネット利用に関する規程の策定
そこで、社内におけるインターネットの利用を制限しつつ、モニタリングすることを目的としてインターネットの利用に関する規定を策定するといいでしょう。
例えば、インターネットを利用する上での遵守事項・注意事項(業務関連性のないウェブページの閲覧を禁止すること、私的利用の禁止、機密情報漏洩の禁止、会社への誹謗中傷の禁止など)を定める必要があります。
また、この規程の中にモニタリングに関する事項を定めることで適切な告知等の手続きの明確化がされることになります。企業が個人情報取扱事業者(個人情報保護法2条5項)である場合には、インターネットの閲覧履歴等を確認することは個人情報の取得に該当することになります。そのため、利用目的をあらかじめ特定・公表するか、情報の取得時には速やかに利用目的を通知または公表しなければなりません(同法15条、16条)。規程の中に利用目的等を定めておくことであらかじめ特定・公表するという要件を満たすことになりますので、情報の取得に関する個人情報保護法のハードルをクリアできることになります。

2. 調査とモニタリング
本件の事例である誹謗中傷が書き込まれている場合や、秘密情報が書き込まれている場合などは、会社にとってはレピュテーションを維持する上で、また事業活動を継続する上で重大な事態であると考えられますので、調査を行うことは必要であると考えられます。また、その中で従業員が関与していると考えられる場合には、従業員のPCを調査することは合理的でしょう。
しかし、従業員も一人の人間として当然に個人情報保護の対象になります。社内のPCを利用している場合であってもそれは同様です。
一つ、過去の裁判例で告知のないまま社内PCの調査を行った事例に関する裁判例(東京地裁平成13年12月3日判決)がありますので、判示内容を紹介します。
メールやホームページの閲覧履歴等について調査を実施したという事例において、「監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益とを比較考量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となる」と判断しています。
すなわち、目的や手段、態様等を総合考慮し、相当な範囲を逸脱した監視がなされているかどうかが判断の基礎ということになります。この中で、「手段」「態様」は例えば、PCの調査が行われることについての告知があったかなどの手続的な部分も考慮されることを前提としていると考えられます。そのため、手段等が社会的に相当性を有することを示すための事情として、調査・モニタリングの実施が予定されていることなどを十分に告知の上、同意を取得しておくことが適切だと考えられます。