マネーロンダリングと本人確認

2020/07/03 03:04
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

Q: マネーロンダリングの防止(アンチ・マネーロンダリング、以下「AML」)のために、本人確認を行う必要があるとのことですが、どのような場合に、どのような対応を行う必要があるか教えてください。

A: 金融機関を含む一定の事業者は、取引を行う場合に顧客の性質に応じて以下の類型により本人確認を行う必要があります。

  1. 顧客が個人の場合
    顧客の氏名や住所、生年月日等
  2. 顧客が法人の場合
    法人の名称及び本店または主たる事務所の所在地等
    ※類型に限らず、顧客の実在性と特定性を確認することが必要であるといえます。

1. 犯罪収益移転防止法(以下「法」といいます。)

犯罪収益移転防止法は、概要、犯罪による収益が犯罪を助長することや健全な経済活動に悪影響を与えるため、犯罪による収益の移転を防止することが重要であるため、本人確認を行うことにより収益の移転を防止し、上記のような弊害を防止するということを目的としています。

マネーロンダリングとは、「違法な起源を偽装する目的で犯罪収益を処理すること」をいうとされ、具体的には、「犯罪行為で得た資金を正当な取引で得た資金のように見せかける行為や、口座を転々とさせたり金融商品や不動産、宝石などに形態を変えてその出所を隠したりすること」とされています(下記、「犯罪収益移転防止法の概要」参照。)。

同法の解説は、警察庁が以下の通りまとめており、改正も折り込まれているため、参照する必要があります。リンクも合わせて記載します。

【犯罪収益移転防止法の概要】

https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/hourei/data/hougaiyou20200401.pdf 

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2. 確認の内容

では、どのような場合に、何を確認する必要があるのでしょうか。

① 確認を要する場合

特定事業者が、顧客と一定の取引を行う場合に、本人確認等の義務がかされます。
ここで、「特定事業者」とは、法第2条第2項において定義されており、法律上47の類型に分けられています。しかし、前半のほとんどはいわゆる金融機関を指しておりますので、以下では犯罪収益移転防止法の概要に倣い、類型を限定して列挙します。

【特定事業者】

  • 金融機関等
  • ファイナンスリース事業者
  • クレジットカード事業者
  • 宅地建物取引業者
  • 宝石・貴金属取扱事業者
  • 郵便物受取サービス業者
  • 電話受付代行業者
  • 電話転送サービス事業者
  • 司法書士、行政書士、公認会計士、税理士及び弁護士等の士業等

特定事業者に該当する場合であっても、全ての行為が義務の対象となるわけではありません。すなわち、義務の対象となる業務「特定業務」が定められています。そして、特定事業者が顧客との間で取引時確認を行う必要があるのは、全ての取引ではなく、特定業務のうち一定の取引「特定取引等」に限定されています。

そのため、本人確認の対象となる「特定取引等」の範囲を把握しておくことが重要です。

「特定取引等」とは、「特定取引」と「ハイリスク取引」に分けられます。

「特定取引」とは、①犯罪収益移転防止法施行令第7条に列挙されている取引であり、事業者の業態に応じて取引時確認を行うべき取引が規定されているものと、②マネーロンダリングの疑いがあると認められるなど、特別の注意を要する取引をいうとされています。①については、列挙されているものが非常に多いため、自社の業態に応じて確認を要します。日常的に取引時確認を行う必要があるのは①の類型になると考えられます。

② 確認を要する事項

確認を要する事項は、大別して(i)本人特定事項と(ii)取引を行う目的及び職業(事業の内容)になります。以下それぞれについて確認します。

A 顧客が個人の場合

(i) 本人特定事項

顧客が個人である場合、本人特定事項として当該顧客の氏名、住居、生年月日を確認しなければなりません。そして、その確認方法は、犯罪収益防止法施行規則第7条1号に列挙されています。

同号のイ及びロに規定されている書面は、当該書面単体で本人確認を行うことが可能です。イ及びロ以外の書面については、転送不要郵便等を用いて取引関係文書を送付するなどの方法による本人確認が別途必要になりますので留意が必要です(規則6条1項1号)。

(ii) 取引を行う目的及び職業

取引を行う目的及び職業は、顧客による申告により確認することになります。

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B 顧客が法人の場合

(i) 本人特定事項

法人顧客の場合には、本人特定事項として、当該法人の「名称および本店または主たる事務所の所在地」を確認しなければなりません。

法人の場合にもどのような書面で本人特定事項を確認するか施行規則7条2号において定められています。具体的には、①当該法人の代表者等から登記事項証明書や印鑑証明書など法定の書類の提示を受ける方法や、②登記事項証明書や印鑑証明書など法定の書類の送付を受け、当該書類(またはその写し)を記録に添付し、本人確認書類に記載されている法人の本店等に対して、転送扶養郵便で取引関係文書を送付するなどの方法を取ることができます。

なお、法人顧客の場合、当該法人の取引担当者についても本人確認を行う必要がある点は意識しておく必要があると考えられます(法4条4項)。

(ii) 取引を行う目的及び事業の内容

取引を行う目的については、個人顧客の場合と同様に顧客等から申告を受ける方法により確認することになります。

事業の内容の確認は、当該法人の定款や登記事項証明書などの法人の事業内容が確認できる書類を用いて確認することになります(施行規則10条2号)。

C 実質的支配者の本人特定事項の確認

法において、「実質的支配者」という概念が規定されており、実質的支配者についても本人特定事項を確認する必要があるとされています。具体的には、「当該顧客等の代表者等からの申告を受ける方法」(施行規則11条1項)により確認することになります。しかし、申告のみによると法人を利用したマネーロンダリングに利用される可能性があるため、実質的支配者の本人確認書類の提示を求めることまで行うことが望ましいと思われます。

なお、実質的支配者が誰かは、以下の順序で確認を進めることになります。いずれの場合においても、当該法人の意思決定について支配しているものがいるのか(またはいないのか)ということを基準としています。

  1. 資本多数決法人の場合
    議決権の総数の4分の1を超える議決権を直接または間接に有している者はいるか(施行規則11条2項1号)→上記の者がいない場合、出資、融資、取引その他の関係を通じて当該法人の事業活動に支配的な影響力を有すると認められる者はいるか(同項2号)→上記の者がいない場合、法人の代表者、または法人の業務を執行する者(同項4号)
  2. 資本多数決法人以外の場合
    法人の事業から生じる収益または当該事業に係る財産の総額の4分の1を超える収益の配当または財産の分配を受ける権利を有していると認められる者はいるか(同項3号イ)→②上記のものがいない場合、出資、融資、取引その他の関係を通じて当該法人の事業活動に支配的な影響力を有すると認められる者はいるか(同項3号ロ)→上記の者がいない場合、法人の代表者、または法人の業務を執行する者(同項4号)
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。