企業が知っておくべき消費生活用製品のリコール制度

2020/06/10 09:00
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

1 企業にとって身近なリコール制度

家電製品、化粧品など、企業が製造する様々な消費生活用製品のリコール情報が、日々、テレビや新聞等で報道されるようになりました。

「リコール」とは、欠陥や不備のあった製品を、これを製造した企業自らが、回収したり無料で修理する対策のことですが、リコール実施中にも被害が拡大したり、リコールが適切に行われない事例も散見されます。

消費生活用製品のリコールとはどのような制度であり、どのような場合に実施され、どのように実施すべきなのかなど、企業が知っておくべき情報を紹介します。

2 消費生活用製品のリコールとは

リコールとは、設計・製造上のミスなどにより、製品に不備や欠陥があることが判明した場合に、法令の規定又は製造者等の判断で、無償で回収や修理などを行う措置のことです。

具体的なリコールの施策として、企業は、問題のある製品の製造、流通及び販売を停止し、製品の回収を行います。

また、企業は、消費者に対する製品リスクについて、自社のHPやメディアを利用するなどして、適切に情報提供を行います。この際、類似の製品事故等の未然防止のために、消費者への注意喚起もあわせて行われることがあります。

さらに、企業は、消費者の保有する製品の交換、改修又は引取りを行います。

上記のようなリコール施策を適切かつ迅速に実施することは、一度社会から失った信頼を取り戻すために、企業にとって、不可欠といえるでしょう。

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3 リコール実施の主体について

消費生活用製品安全法第38条第1項は、製造事業者又は輸入事業者の責務として、製品事故等の未然防止及び拡大を防止するため必要があると認める場合は、製造事業者又は輸入事業者に対し、自主的にリコールを実施することを定めています。

また、消費生活用製品安全法第34条第2項6は、消費生活用製品の小売販売を行う者は、重大製品事故の発生を知ったときは、その旨を該当製品の製造事業者又は輸入事業者に通知するよう努めなければならないと規定しております。そして、同条第1項7は、小売販売事業者も製品事故情報を収集し、これを一般消費者に適切に提供するよう努力する必要があると規定しています。

さらに、消費生活用製品安全法第34条第2項は、修理事業者、設置事業者が、修理や設置に係る消費生活用製品について重大製品事故が生じたことを知ったときは、その旨を当該消費生活用製品の製造事業者又は輸入事業者に通知するよう努めなければならないと規定しています。

4 製品事故等が発生した場合の企業の対応について

企業が、製品事故等の発生又はその前兆を確認した場合には、以下のフローで、リコール対応する必要があります。

(1)事実関係の調査

企業が、製品事故等の発生又はその前兆を確認した場合、企業がまずはじめに行うべきことは、事実関係を調査し、客観的事実を把握することです。

その上で、製品事故が発生した場合、第一に守らなければならないのは、消費者の安全です。

企業は、断片的な情報でも構わないので、判明している事実関係から適切に整理し、社内の各セクションへの報告、消費者庁などの行政機関への事故内容の報告、プレスリリースなどによる報告を行い、消費者の被害拡大防止に努めなければなりません。

(2)リコールを実施するかどうかの判断

企業の経営者としては、製品事故等の発生又はその前兆を確認した場合、即時にリコールを実施するか、暫定的な対応を実施すべきかなどの意思決定が必要となります。

リコールを行うか否かの判断に際しては、主に被害の質、事故の性格、事故原因との関係などから総合的に判断すべきです。

例えば、人身への重篤な被害が存する場合、製品事故が多発・拡大する可能性がある場合、製品事故の原因が製品自体の欠陥である場合などは、リコールを積極的に検討すべきケースといえます。

また、人身への重篤な被害は発生しておらず、物損事故のみが生じている場合であっても、製品の構造、使用状況からして、将来人身への危害の可能性がある場合や、製品事故が多発・拡大する可能性がある場合には、上記同様に、積極的にリコールを検討すべきものといえます。

製品事故を発生させた企業からすると、リコールには長時間・多大な労力がかかり、会社のレピュテーションを毀損する可能性もありますが、適切なリコール施策を実施し、被害拡大防止を行うことは、会社のレピュテーションリスクを最小限に抑えることに繋がります。

また、上記会社のレピュテーションリスクを最小限に抑えるためには、問題のある製品の製造、流通及び販売の一時停止、使用停止の広報、注意喚起等の情報提供などの暫定対応を行うことも重要といえます。

5 リコールを行うべき範囲

リコールの目的は、欠陥や不備のあった製品を、これを製造した企業自らが、回収したり無料で修理したりすることにより、消費者を保護し被害の拡大を防ぐことにあります。

リコールの合目的観点からすると、リコールを行うべき範囲は、基本的には、全出荷量が対象として設定されることが望ましいといえます。

なお、リコール対象製品の特定にあたっては、製品名はもちろん、型番、ロット番号、製造時期、出荷地域などから特定することが重要です。

6 まとめ

企業の経営者は、製品事故等が発生しないよう、日頃から安全な製品の製造や供給を意識しなければなりません。特に、製品を使用する消費者の安全確保に関する観点が重要です。

そして、製品事故等の発生又はその前兆を確認した場合には、消費者への周知を含め、消費者の安全を第一に考えた行動を実行することにより、企業のレピュテーション毀損を最小限に抑えることが重要です。

また、企業の経営者は、製品事故等の発生又はその前兆に関する情報を真摯に受け止め、暫定的であってもこれを速やかに周知し、事実関係等を調査し、情報を包み隠さず、誠実に対応することが不可欠といえます。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。