顧客からのクレームや不当要求に対する対応

2020/06/10 09:00
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

1 顧客からのクレーム行為に対する法的対応

企業に対して、顧客が執拗にクレームを行ったり、不当な要求を続けたりするケースが後を立ちません。

企業側としては、しっかり謝罪を行っているにも関わらず、このようなクレームが止まらない場合、企業の業務にも支障が生じてしまうこともあります。

このような企業に対するクレームや不当要求に対して、会社はそのような行為を止めるよう、裁判所に対して差止請求を申立てることができます。

また、このような企業に対するクレームや不当要求により、会社に損害が発生した場合には、クレーマーに対して損害賠償請求を行うことも可能です。

以下、顧客からのクレームや不当要求に対する具体的な対処法について、検討していきます。

2 差止請求について

企業が、顧客からクレームや不当要求を受けた場合、どのような対処法をとることができるでしょうか。

この点について、まず、企業に対するクレームや不当要求に対しては、そのような行為を止めるよう、裁判で求めることができます。

企業がクレームや不当要求の差止請求ができる場合について、裁判所は、「業務に及ぼす支障の程度が著しく、事後的な損害賠償を認めるのみでは当該法人に回復の困難な重大な損害が発生すると認められるような場合」と判示しています(大阪地判平成28年6月15日)。

上記「業務に及ぼす支障の程度が著しく、事後的な損害賠償を認めるのみでは当該法人に回復の困難な重大な損害が発生すると認められるような場合」とは、具体的には、些末な情報に関する大量の情報公開請求、従業員に対して暴言を浴びせる行為、些細なことで頻繁に架電し罵声を浴びせる行為、執拗に繰り返し架電する行為などが挙げられます。

以上より、顧客等が、会社に対し、クレームや不当要求を行った場合には、企業は、顧客等に対し、クレームや不当要求をしないよう裁判で差止めを求めることができます。

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3 間接強制について

次に、裁判所で差止請求が認容されたにも関わらず、顧客等が、企業に対してクレームや不当要求を続ける場合には、間接強制の手続きをとることが可能です。

この間接強制とは、債務を履行しない義務者に対し、一定の期間内に債務を履行しなければ、その債務とは別に、間接強制金を課すことを警告(決定)することで、義務者に心理的圧迫を加え、自発的な支払を促す制度です。

差止請求が認容されても、これに従わない者もいますので、間接強制まであわせて検討することが重要になります。

4 損害賠償請求

差止請求や間接強制に加えて、企業は、クレームや不当要求により企業に損害が発生した場合には、損害賠償請求をすることができます。

過去の裁判例では、執拗に悪質なクレームや不当要求をする者に対して、100万円前後の損害賠償請求を認めるものがあります。

5 クレームや不当要求への対処法

クレームや不当要求への対応に法的手続きが利用できるとしても、証拠保全等の観点から、これらの行為に対する初動が重要になります。

具体的には、相手のクレームや不当要求に屈することなく、証拠保全をする観点から、

  1. 毅然とした態度で一貫した対応をする
  2. クレームや不当要求に対する担当者は企業側が決める
  3. 複数人で相手方に対応する
  4. 相手方との会話は録音する
  5. 相手の要求に即答や約束をしない
  6. 警察に通報する
  7. 弁護士に依頼する

ことが重要になります。

クレームや不当要求にさらされた場合に、各人が適時適切な初動をとることで、速やかに問題を収束させることが可能になります。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。