不当廉売の規制について

2020/06/10 09:00
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

1 安売りが違法となる場合

商品の値段が安いことは、消費者にとって通常は望ましく、また、同業他社の間で競争を激化させるので企業活動の活発化にも寄与します。企業の活動が活発化すると、税収も増えるので、国も潤います。そのため、商品の値段が安いことは、社会全体にとって良いことばかりのように思われます。 

もっとも、取得原価を下回る価格で商品を販売することは、不当廉売行為というものに該当し、企業に課徴金などの行政処分が下される可能性があります。

安い価格で商品を売ることは、社会全体にとって良いことのように思えますが、なぜそれによって課徴金が課されるような事態となりうるのでしょうか。

事例で考えると分かりやすいので、以下のとおり、ご紹介いたします。

2 不当な安売りが違法となるのはなぜか

とある社会において、野菜ジュースの業界では、甲社、乙社、丙社が競争しており、甲社が最大手です。 

甲社は、他社と比べて資金潤沢であるところ、原価割れの価格で野菜ジュースを販売しました。価格競争の原理によれば、乙社と丙社は競争のため、自社の商品価格を甲社の価格に近付け、自社の商品も売れるようにするはずです。

もっとも、甲社の価格があまりにも安く、乙社と丙社がその価格に近付けようものなら、両社とも倒産してしまう状況でした。そのため、乙社も丙社も、野菜ジュースでは採算が立たず儲からないので、野菜ジュース業界から撤退することを決定しました。

野菜ジュース業界で唯一となった甲社は、やりたい放題です。廉価販売によって一時的な損失は被りましたが、独占企業となって以降、価格競争が働かないので、野菜ジュースの価格をつり上げてしまいました。

甲社が廉価で販売したことの負の結果は、価格が結果として高くなってしまったことにとどまりません。甲社は、独占企業となってしまい、競争相手がいないので、これ以上良い商品を作ろうという気持ちがなくなりました。その結果、より高品質の野菜ジュースが開発されることはなくなってしまいました。

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結局、一時的に消費者は安い野菜ジュースを買えはしたのですが、廉価販売は、消費者、企業ひいては社会全体にとっても悪い結果をもたらしました。

以上のように、商品を安く売るという発想自体は、自由競争社会において当然に尊重されるべきである一方、不当な安売りは、社会を悪い方向へ導くため、一定の規制が必要です。

そこで、公正取引委員会という内閣総理大臣の所轄下の行政機関が、「正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為」について、様々な行政指導や課徴金を含む行政処分を行っています。

公正取引委員会の特徴としては、省庁や国家機関などから指揮監督を受けることなく独立して職務を行うことができる点にあります。これは、公正取引委員会が企業などに対し強い指導権限があるため、政治的な圧力を厳に避ける必要があるためです。

3 不当廉売の要件

では、どのような場合に不当廉売として違法になるのでしょうか。簡潔に言うと、「商品の供給に要するすべての費用」を下回ると原則として違法となります。具体的に言うと、例えば、販売業なら「仕入原価に販売費および一般管理費を加えた額」、製造業なら「製造原価に販売費および一般管理費を加えた額」を下回ると原則として違法となります。

また、他の事業者の実際の状況のほか、廉売行為者の事業の規模及び態様、廉売対象商品の数量、廉売期間、広告宣伝の状況、廉売対象商品の特性、廉売行為者の意図・目的等を総合的に考慮して、個別具体的に他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるとされる場合も違法となり得ます。

4 不当廉売とならない場合 

もっとも、上記のような販売方法がすべて違法とはならず、例外的に不当廉売とならない場合もあります。例えば、生鮮食品の見切り販売等、通常の商習慣上想定される販売方法の場合には、公正な競争への影響が小さいため、廉売ではあるものの違法とはならない場合があります。よって、廉売を行う場合には、その目的、社会や競争への影響、必要性等を十分に検討の上で行う必要があります。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。