ポイント制度と資金決済法・景品表示法

2020/07/30 03:21
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

Q: 当社のサービスの利用者にポイントの付与をし、当社や他の提携企業の製品の購入やサービスの利用にポイントを活用することを検討しています。その場合の法的な規制や留意点を教えてください。

A: ポイントの内容により受ける法的な規制は異なります。

① 資金決済法上の規制

顧客からあらかじめ金銭の支払いを受け、その対価としてポイントは発行する場合には、資金決済法における前払い式支払い手段というものに該当しますので、資金決済法による規制を受けることになります。

そして、当該ポイントをどこで使用することができるかによって、当局との関係が異なることになります。

まず、(i)発行者自らの店舗のみでポイントを利用できる場合(自家型)には、一定の条件を満たした際、届け出をする必要があります。他方で(ii)発行者以外の第三者の店舗等においても利用できる場合(第三者型)の場合には登録をしなければなりません。

② 景品表示法上の規制

顧客からあらかじめ金銭の支払いを受けることなく、なにかに付随するおまけとしてポイントを付与する場合には当該ポイントは景品表示法における「景品類」に該当するとして同法の規制を受ける可能性があります。その際には、付与できるポイントに上限がありますので注意が必要です。

1 前払い式支払い手段とは

金銭等の対価をあらかじめ受け取り、それに対して商品の購入やサービスを受ける際に使用できるポイントを付与する場合には、前払い式支払い手段(資金決済法第3条第1項)に該当するため、同法の規制を受けます。

前払い式支払い手段は①自家型と呼ばれる、発行者自らとの関係で使用できるものと、②第三者型と呼ばれる、発行者以外との関係でも使用できるものがあります。

2 自家型前払い式支払い手段

(1) 自家型前払い式支払い手段とは

「自家型前払い式支払い手段」とは、簡単にいえば、発行者の店舗等のみで使用できる前払い式支払い手段をいいます。

(2) ポイント制度を始めるための要件

自家型前払い式支払い手段については、後述の第三者型前払い式支払い手段と異なり、発行するために登録は要しません。

他方で、基準日(毎年3月31日及び9月30日をいいます。)において、未使用残高がその発行を開始してから最初に資金決済法14条1項に規定する基準額(1000万円)を超えることとなったときは、届け出をしなければならないことになります。

(3) 業務開始後の規制

業務を開始した後も、届け出事項の変更や帳簿の作成、記録の保存等を行う必要があります。

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3 第三者型前払式支払手段

(1) 第三者型前払式支払手段とは

「第三者型前払式支払手段」とは、自家型前払式支払手段以外の前払式支払手段をいいます。自家型と異なり、第三者との関係でも、一定の価値を持ち、決済等に利用することができるというものです。

(2) ポイント制度を始めるための要件

① 資産の保全

第三者型前払い式支払い手段の場合も、法14条1項及び同施行令6条に基づき、基準日未使用残高が1000万円以上になる場合には、発行者は、その二分の一の額以上の額に相当する額の発行保証金を供託しなければなりません。

② 事業者登録

第三者型前払い式支払い手段の場合、自家型の場合と異なり、その発行の業務を行うためには登録を行う必要があります。登録には、登録の申請書の提出等を行う必要があります。単に申請書を提出すればいいわけではなく、社内の体制等を整える必要もあり、当局に事前相談等を行うこと必要になります。

また、金融庁が定める金融庁事務ガイドライン第三分冊5.前払式支払手段発行者関係による規制も受けることになるので留意が必要です。

③ 加盟店の管理体制

第三者型前払い式支払い手段の場合、上述の通り発行者以外の第三者の商品やサービスの決済に利用されることが想定されています。そのため、当該第三者(加盟店となることが多いと考えられます。)に対する監督等も要求されます。具体的には、(i)加盟店が公序良俗に違反しないか、(ii)違反している場合、加盟店を除外できる体制となっているか、(iii)加盟店の状況変化を監督する体制が整備されているか、(iv)加盟店の報告義務などが定められているか、などが加盟店の管理において必要な事項となります(前払ガイドライン、資金決済法10条1項4号)。

(3) 業務開始後の規制

業務を開始した後も、届け出事項の変更や帳簿の作成、記録の保存等を行う必要がある点は、自家型前払い式支払い手段の発行と同様です。

4 (対価を受け取ることなく)おまけとしてポイントを付与する場合の規制

他方で、ポイントの対価として金銭等を受け取らない場合、すなわち、一定の利用に対するおまけとしてポイントを付与する場合には、前払い式支払い手段に該当せず、上記の規制は生じないことになります。

他方で、このようなおまけは「景品類」に該当するとして景品表示法による規制を受ける可能性があるためその点は留意が必要になります。

景表法は、景品の提供によって消費者の適正な商品選択がゆがめられ、事業者間の公正な競争の阻害を防ぐために、景品類の上限の金額を規定しています。景品を付与する対象となる取引において、購入金額が1000円未満の場合には200円まで、それ以上の金額の場合には、購入金額の10分の2以内の金額が上限です(内閣府告示「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」1条)。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。