有利誤認表示

2020/07/22 10:11
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

Q: 町を歩いていると「閉店セール」などという表示とともに、「今だけ限定50%OFF」などという表示がされています。その閉店セール表示が非常に長い期間にわたってなされ続けている場合、法的に何か問題はあるのでしょうか。

A: このように、「限定」ではないのにも関わらず「限定」を謳って販売を続ける場合には、景品表示法における「有利誤認」表示とされて消費者庁から指導が入ったり、会社名を公表されたり、課徴金などの制裁を科されたりする可能性があります。

1 有利誤認表示とは

事例のような表示を行うことは景品表示法上の有利誤認表示として制約される可能性がありますので、まず有利誤認表示について説明します。

景品表示法(以下、「景表法」といいます。)第5条は、①「著しく優良であると示す表示」(優良誤認表示)や、②「著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」(有利誤認表示)を禁じています。これらは消費者にお得である、などと誤認されることを防止することを目的としています。

有利誤認表示が規制されるのは、そもそも消費者は一般的に高品質で低価格の商品・サービスを求めており、これに対して商品・サービスを供給する企業は高品質で低価格の商品・サービスを提供するべく原価や仕組みの見直しなどを含めた企業努力を行ってくことになります。

これによって市場経済における発展が実現され、いい事業者が生き残り、さらなる企業努力を進めていくことになります

では、上記のような有利誤認表示等の不当表示が規制されない場合はどうなるでしょうか。消費者は品質や金額に関する情報を信用することができず、適切な商品の取捨選択を行うことができません。こうなると、企業は商品・サービスの品質や価格での競争をすることなく誇大な広告や虚偽を含む広告により顧客を獲得することに注力しかねず、上記のような品質や価格競争による市場の発展が実現されないことになります。

景表法はこのような不当表示について規制をしており、措置命令や社名公表等の制裁措置が取られる可能性があります。

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2 事例における問題点

閉店セールを例にとると、①特定の範囲の商品を、②閉店するまでの期間に限り、安価に商品を購入することができるということを内容とします。

すなわち、②「閉店するまでの期間に限り」という消費者が利益を受けられる期間が限定されているわけです。

そのような表示を見た場合の消費者心理として、「他のお店にもあるかもしれないけど、今限定で半額なのであればこの場で買ってしまおう。」と考えることは合理的で、そのように考える人も多いことでしょう。

では、この表示が実際には事実と異なる内容で、今後も永続的に安価な値段で購入できる場合、どのように感じるでしょうか。

消費者としては、期間限定だからこそほかの店と比較したりせずに購入した、他の店であれば集めているポイントが付与された、メンテナンス等を考えれば別の店で購入した、などと感じることがあるかもしれません。

つまりは、期間限定での価格でないのであれば、通常通り割引後の金額を表示すればいいのであり、過度に消費者をあおるような表示をすべきではないということになります。

このように、期間限定ではないのに期間限定という表示をすることは消費者の適切な選択を阻害するような表示となりうるため不当表示として制限されうることになります。

3 (参考)処分事例

以下参考までに実際に似たような事例で実際になされた処分の事例を2件紹介します。

① 値引き期間の表示が有利誤認表示であるとされた事例

措置命令公表日:平成27年3月20日

事業者は通信講座にかかる役務を提供する会社です。

概要は、「今なら全講座●円割引」という趣旨の表示をし、示されたキャンペーン期間内に当該役務の受講を申し込んだ場合に限り、正規の受講料から割引をした金額で講座を受講することができるという表示だったにも関わらず、実際にはかかる●円割引キャンペーンはそのほかのほとんどの期間において継続されており、いつ申し込んでも●円割引の価格で受講することができるものでした。

この事案においては、期間限定の割引に関する表示が4年以上の期間にわたり継続されていたという事情がありました。

② 値引き期間の表示が有利誤認表示であるとされた事例

措置命令公表日:平成29年3月22日

事業者はインターネット接続サービスを提供する会社です。

概要は、「今なら最大●か月無料」という謳い文句を掲げつつ、そのキャンペーン期間について「●月●日」までと表示していました。しかし、実際には、キャンペーン期間は定期的に1月ごと延長されており、そのようなキャンペーンが遅くとも遅くとも9月1日から翌年2月25日までの約6か月の間継続されていたという事案でした。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。