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会社の代表者以外が押印した場合の契約の有効性

2020/06/10 18:00
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

1 会社の代表者以外が契約書に押印するケース

会社が相手方と契約を締結する場面において、自分の会社は代表取締役が押印しているにも関わらず、相手方の会社は、代表取締役ではなく、部長などの肩書が付された者が押印するケースが散見されます。

このようなケースにおける契約の有効性を判断するにあたっては、契約書に押印した者が、当該会社から包括的代理権を授与されているか、問題となっている契約の締結がその包括的な代理権の範囲に含まれるかが重要になります。

結論として、契約書に押印した者が、当該会社から包括的代理権を授与されており、問題となっている契約の締結がその包括的な代理権の範囲に含まれる場合には、契約は有効に成立することになります。

一方、契約書に押印した者が、当該会社から包括的代理権を授与されていなかったり、たとえ包括的代理権を授与されていたとしても、この代理権が、問題となっている契約の締結とは無関係のものであったりする場合には、契約が無効となる可能性があります。

2 契約書に押印した者が、会社から包括的代理権を授与されており、当該契約の締結もその包括的な代理権の範囲に含まれる場合

契約書に押印した者が、会社から包括的代理権を授与されており、当該契約の締結もその包括的な代理権の範囲に含まれる場合、たとえ代表取締役の押印がなくとも、当該契約は有効に成立します。

実務上、上記のような包括的代理権を会社から授与されている者は、部長、支店長などの肩書であることが多いといえます。

また、会社法第14条第1項は、「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。」と規定し、同条第2項は、「前項に規定する使用人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。」と規定しています。この規定により、契約書に押印した者の包括的代理権に対して内部的に制約を課していたとしても、契約の相手方が過失なくその制約を知らなかった場合には、当該会社は、契約書に押印した者の無権限を主張できず、当該契約は有効になります。

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3 契約書に押印した者が、会社から包括的代理権を授与されていたが、この代理権が当該契約の締結とは無関係の者であった場合

この場合、契約書に押印した者は、当該契約を締結する権限を有しないので、無権限者によってなされた当該契約は無効となるのが原則です。

もっとも、会社法及び民法上の表見法理により、契約が有効になる場合があります。

以下、各表見法理について検討していきます。

(1)会社法上の表見法理について

まず、会社法第11条第1項(支配人に関する規定)は、「支配人は、会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。」と規定する一方、同法第13条(表見支配人に関する規定)は、「会社の本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、当該本店又は支店の事業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。」と規定しています。

このように、会社法は、支配人と同視できるような名称が付与されている者には、実際には権限がなかったとしても、権限を有する者とみなします。

上記を踏まえると、支店長などの肩書を付された者は、「会社の本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称」を付されていると評価され、表見支配人に当たるケースがあるといえます。もっとも、部長程度の肩書では、会社の本店又は支店の事業全般についての権限があるように捉えられるとはいえず、表見支配人に当たらないと判断されるケースもあるでしょう。

いずれにせよ、契約書に押印した者が、会社から包括的代理権を与えられていることが明らかでない場合や、包括的代理権の範囲内に当該契約締結権限が含まれていることが明らかでない場合には、代表取締役の押印を求めるべきです。

(2)民法上の表見法理について

民法は、ある事項につき本人を代理する権限を持つ者が、その権限外の行為まで代理として行い、それが権限内のものと相手方が信頼した場合には、本人は相手方に対して責任を負わなければならないと定めています(民法第110条、権限外の行為の表見代理)。講学上は、代理権踰越による表見代理あるいは越権代理と呼ばれることもあります。

上記民法の規定より、本件のようなケースも、上記正当な理由があるといえれば、相手方に対して当該契約が有効であると主張できます。

もっとも、判例では、正当な理由の有無について、代理権の存在を推測させる徴憑があれば正当な理由があるものとし、一方、不審な事情があるにもかかわらず相手方が調査や確認を怠った場合には過失が認められ、正当な理由はないと判断されています。なお、上記代理権の存在を推測させる代表的な徴憑とは、本人を代理する権限を持つ者が、実印や印鑑証明書、委任状などを所持している事実とされます。

権限外の行為の表見代理が認められるかについて事前に確定的に判断することは困難ですので、(1)同様、契約書に押印した者が、会社から包括的代理権を与えられていることが明らかでない場合や、包括的代理権の範囲内に当該契約締結権限が含まれていることが明らかでない場合には、代表取締役の押印を求めるべきです。

(3)契約書に押印した者が無権限であった場合

契約書に押印した者が無権限であった場合、無権代理となり、当該契約は無効となるのが原則です。

もっとも、民法第109条は、「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。」と定め、代理権を授与していないにもかかわらず代理権を授与したという表示を本人が行い、それを相手方が信頼した場合には、代理権があったものとして責任を負うとしています(代理権授与表示による表見代理)。

代理権授与表示による表見代理が認められるか否かは、会社が相手方に対して当該行為を行う代理権を代理人に与えた旨の表示がなされる必要があります。また、会社が代理人に当該行為を行う代理権を有するような肩書を与えたことが、会社が授与すると表示した代理権の範囲内であるかなどの事情によって判断されます。

以上より、代理権授与表示による表見代理が認められるかを事前に確定的に判断することは困難ですので、契約に押印した者が無権限であった場合にも、(1)(2)同様、契約書に押印した者が、会社から包括的代理権を与えられていることが明らかでない場合や、包括的代理権の範囲内に当該契約締結権限が含まれていることが明らかでない場合には、代表取締役の押印を求めるべきです。

4 まとめ

以上より、まず、契約書に押印した者が、会社から包括的代理権を授与されており、当該契約の締結もその包括的な代理権の範囲に含まれることが明らかな場合には、その者の押印で、当該契約は有効に成立するといえるでしょう。

一方で、契約書に押印した者が、会社からから包括的代理権を授与されていたが、この代理権が当該契約の締結とは無関係のものであることが窺われる場合、実際に当該代理権が当該契約の締結とは無関係のものであったり、無権限であったりする場合には、契約が無効となる可能性があります。

よって、契約書に押印した者が、会社から包括的代理権を与えられていることが明らかでない場合や、包括的代理権の範囲内に当該契約締結権限が含まれていることが明らかでない場合には、会社のリスクを最小限に抑えるべく、代表取締役の押印を求めるべきです。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライアンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。
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