取引先が破産した場合の措置

2020/06/10 09:00
この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎
SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
宮本 武明
宮本 武明
SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)

1 取引先の破産

取引先に対する債権が残っている状況で、取引先の破産管財人から、破産手続きを開始する旨の連絡があった場合、どのように対応するべきでしょうか。 

破産手続きが開始されると、破産者の財産が金銭に換価され、債権者の間で公平に分配されることになります。もっとも、債権者の債権は大きく財団債権と破産債権に振り分けられ、破産債権は財団債権に劣後するため、破産債権を有する債権者は全く回収できないことが通常です。そこで、破産手続外で債権を回収する方法を検討することが重要となります。

破産手続外における回収方法としては、(1)担保権の実行、(2)相殺、(3)連帯保証人に対する請求等が考えられます。 

2 担保権の実行 

実行する担保権としては、抵当権、質権、集合動産譲渡担保、動産売買先取特権、所有権留保などが考えられますが、抵当権については、対象が不動産に限定されており、銀行等を除いて担保にとることが現実的でないこと、質権については対象物の移転が必要で質屋等を除いては利用されていないことから、以下その他の担保権について説明します。

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(1)集合動産譲渡担保 

譲渡担保権は、法定されていないものの、実務上の重要性から一般的に認められている担保権です。特に多く使用されているのが集合動産譲渡担保です。例えば、工場内の備品の一切を対象として設定したり、倉庫内の商品の一切を対象として設定したりします。

破産手続きにおいて集合動産譲渡担保権を実行するには、その対抗要件を具備しておくことが必要です。対抗要件は引渡しなので、引渡しがあったことを書面で確認しておくことが効果的です。また、「動産および債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例に関する法律」という法律があり、これによって登記しておくことも可能です。登記はより強力な対抗要件として機能します。 

(2)動産売買先取特権 

動産売買先取特権とは、商品の売主が、売り渡した商品(動産に限ります)から、他の債権者に優先して回収できるという権利です。譲渡担保と異なり、法定の担保物権ですので、合意していなくとも主張することができ、破産手続中も行使することができます。

(3)所有権留保 

所有権留保とは、商品の代金債権を担保するべく、代金が支払われるまでの間、商品の所有権を売主に留保するという合意のことをいいます。自動車の売買について使用されることが多いです。所有権留保も、破産手続きにおいて主張することができます。なお、所有権留保は所有権の主張をすることなので、これにより対象物を取り戻すことは担保物件の実行ではないという考えもあります。

3 相殺 

破産した取引先に対して債権を有しており、同時に当該取引先に対して債務を負っている場合、相殺によって債権回収を図ることが考えられます。相殺は、破産手続外で一方的な意思表示によって行うことができ、優先弁済を受けたのと同じ効果を生じさせることができます。

相殺は、相殺を主張する側が有している債権(自働債権といいます)の弁済期が到来していないと主張できないのが原則ですが、破産手続きの開始によって弁済期が到来したことになるので、相殺を主張することができます。手続きとしては、内容証明郵便等で相殺の意思表示をすれば足りますが、破産者を相手とする相殺については一部制限があり、複雑な規制がかかっているので、弁護士に相談して進めるのが望ましいといえます。

4 連帯保証人に対する請求 

取引先が破産したとしても、その効果は連帯保証人に対して及ぶことはありません。よって、連帯保証人に対しては引き続き請求することができます。もっとも、連帯保証人が取引先の代表者である場合は、代表者についても同時に破産することが多いため、この場合は請求できないことになります。

この記事の監修者
道下 剣志郎
道下 剣志郎 SAKURA法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。日本最大の法律事務所である西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金商法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。
宮本 武明
宮本 武明 SAKURA法律事務所 弁護士(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研>究科卒業。4大法律事務所の1つであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。広くファイナンス分野を業務分野とし、資産運用会社への出向経験を活かして、上場支援、コンプライ>アンス関連業務、M&A、コーポレート・ガバナンス等の案件に従事するほか、訴訟案件や一般企業法務案件も担当する。